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M&Aニュース

                                               2007年7月30日
 


海外子会社への貸付債権を第三者に売却したことは
債権放棄に当たるか否か

 名審 貸付債権の売却は債権放棄に当たらず寄附金課税の適用なし

 名古屋国税不服審判所はこのほど、農産物の生産・加工等を営む同族会社が、海外子会社であった会社に貸付けていた金銭債権を第三者に売却し債券売却損を損金としたことに対し、税務当局はその取引は実質的には債権放棄であり寄附金課税の対象となるとして争われた事案について、「請求人が本件債権の譲渡を行うことで債権放棄したものとは認められず、本件債権の譲渡で生じた債権売却損は寄附金には該当しない」との判断を示した。
 この裁決は、一般的に、親会社の子会社に対する債権放棄が寄附金課税の対象となるか否かなどを巡り争われた審査請求では、その多くは請求の主張を棄却し寄附金課税等の対象とする判断が多い中、請求人の主張を認めた事例として重要視すべきものである。今回は、その内容を記した名古屋国税不服審判所の裁決文をもとに、請求人・税務当局の主張を比較しながら裁決内容を明らかにする(平成17.2.14.名裁(法)平16-61)。なお、本件の裁決要旨は国税庁不服審判所HPで公開されている。

 事案の概要

  本件では、農産物の生産・加工及び販売業を営む同族会社の請求人は、海外子会社であったX者に対する長期貸付金銭債権の処理に当たり、本件債権を資産運用会社のY社に売却し、それによって生じた債権売却損を損金算入した(その後、本件債権はX社の代表者Bに売却された。Bは請求人の代表取締役の弟)。これに対し税務当局は、本件債権の売却は仮装取引であり、実態はX社に対する債権放棄であることから、請求人は寄附金課税の対象となり、本件債権売却損の損金算入は認められないとして争われた事案である。


請求人 本件債権の譲渡は債権放棄には該当せず、債権売却損は損金となる

   請求人は、海外子会社であったX社に対し債権放棄した事実はなく、本件取引は、請求人から資産運用会社Y社に対し本件債権を譲渡したものであり、正当な取引であるから、本件債権売却損は損金算入されると主張した。
 なぜなら、請求人は当時、金融機関から「X社への本件債権は不良債権であり早期処理する」よう求められていた最中、Bから「X社は設立以来赤字であり、たとえ債権放棄されたとしてもX社の再建は不可能である。そこで米国の銀行に相談したところ、米国居住者であるBが本件債権の債権者となるならば、X社に対する融資等に応じると言われたので、本件債権をBに譲渡して欲しい。」と要望されたことを受け、請求人はX社に対する債権放棄ではなく、本件債権をBに譲渡することを選択したからだ。
 また、資産運営会社であるY社は、本件債権の売買を円滑に行うために請求人とBとの間に介在したのであり、寄附金課税を逃れるために介在したのではない。さらに、本件債権の譲渡は、不良債権処理を目的として一般的に行われている取引(貸借対照表からの消去を目的とした債権処理)であり、非上場会社に対する債権ではあるが、一般的に売買の対象となり得る。
 そうすると、本件債権の処理にあたり、債権放棄は行われていないこととなるため、寄附金課税等の問題は生じない。


税務当局 本件債権の譲渡は仮装取引であり、実質的には債権放棄に該当

   一方、税務当局は、請求人から資産運用会社Y社への本件債権の譲渡は仮装取引であり、その取引の実態は外国法人X社に対する債権放棄に当たると主張した。
 なぜなら、請求人は、金融機関からの求めにより本件債権の処理をするに当たり、直接X社を取引相手とすると寄附金課税の対象になることなどを懸念し、第三者であるY社に本件債権を譲渡することで、本件債権の売却によりあたかも売却損が生じたかのように仮装取引したと考えられるからだ。
 また、X社は倒産の危機に瀕している状況とは言えないこと、本件債権は非上場会社のX社に対するものであるから市場流通性が低いことに加え、これまでX社から請求人に対する具体的な本件債権の返済計画・合理的な再建計画等は示されていない。
 そうすると、本件債権放棄については、法人税法基本通達9-4-1<子会社等を整理する場合の損失負担等>に定められている”やむを得ず損失負担等をするに至った・・・相当な理由”等があったものとは認められず、本件債権放棄は寄附金課税の対象となる。また、本件債権売却損は損金算入されない。


審判所 本件債権の譲渡により生じた債権売却損は寄附金には該当せず

 名古屋国税不服審判所は以上の主張を踏まえ、本件債権の譲渡は、金融機関から不良債権処理を求められた請求人が、本件債権を貸借対照表からの消去を目的としてY社に譲渡したもので、正当な取引と認められると判断。
 したがって、請求人が、本件債権の譲渡を行うことで債権放棄したものとは認められず、本件債権の譲渡により生じた債権売却損は損金となり、請求人の寄附金には該当しないとの判断を示した。
 判断の主な理由として、@本件債権は、請求人からX社に対する金銭貸付債権であり、貸付時に金銭商事賃貸契約書を取り交わしていなかったが、その後作成された同契約書には債権譲渡の禁止特約等はなく、また、A本件債権は非上場会社X社に対するものであるから市場流通性は低いと認められるものの、そのことをもって譲渡性が失われるわけではないことなどからすると、本件債権に譲渡性はあったと考えられる。
 また、B資産運用会社Y社の介在についても、請求人との覚え書きに沿って譲渡代金の受け渡しや預金管理等と行ったものと認められ、不正に取引に介在したとは考えられないの3点が挙げられた。


(以上参考;週刊「税務通信」第2975号)
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