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M&Aニュース

                                               2007年10月09日
 


さいたま地裁 米国LLCの法人該当性を認める

LLCの分配金は出資の払戻しではなく配当所得との判断も示す

   アメリカに設立されたLLC(Limited Liability Company)が、日本の租税法上「法人」に該当するのか否かを争点とした訴訟で、さいたま地裁はLLCは日本の租税法上の法人に該当するとの判決を行っていたことが明らかになった(平成19年5月16日判決言渡 平成17年(行ウ)第3合)。
 これは、アメリカのLLCが行う不動産賃貸業により生じた損益がLLC自体に帰属し、その分配金は所得税法24条の「配当所得」に該当するとして行われた課税当局の更正処分に対して、日本の居住者であるLLCの構成員が処分を不服として提起した訴訟。
 判決で、さいたま地裁第4民事部は、外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては、その外国の法令の内容と団体の実質に従い判断するのが相当し、問題となったLLCについては法人であると認定。
 また、LLCからの分配金は、LLCが出資者の地位に基づいて供与した経済的な利益であり、配当所得に該当すると判断し、課税当局の処分を適法として納税者の請求を棄却した。


米国LLCの法人該当性が争点に


 この事案ではまず、アメリカのニューヨーク州法に基づき組成されたLLCの行った不動産賃貸業により生じた損益が、LLC自体に帰属するのか、LLCの構成員に帰属するのかが問題となっている。 
 日本の租税法上は、法人の所得は法人課税の対象となり、その出資者である個人の課税所得の範囲には含まれないため、LLCが日本の租税法上の法人に該当するのであれば、LLCの所得は法人課税の対象となり、その構成員の課税所得の範囲には含まれない。
 よって、LLCの法人該当性が争点となった。


租税法上の法人は法人格を有する


 判決では、「所得税法2条及び法人税法2条は、内国法人を国内に本店又は主たる事務所を有する法人と定義し、外国法人を内国法人以外の法人と定義しているが、我が国の租税法上、法人そのものについて定義した規定はない。」とした。
 そして、「租税法上の法人は、民法、会社法といった私法上の概念を借用し、これと同義に解するのが相当である。したがって、例えば、会社法上すべての「会社」が法人である以上(会社法3条、旧商法54条1項)、そのすべてが法人税の納税義務を負うことと考えられ、その中には、持分会社である合名会社、合資会社や合同会社も含まれる(会社法2条1項、旧商法53条)し、その他、個別の立法において法人格を与えられているあらゆる法人(公共法人を除く)が何らかの形で法人税の納税義務を負うことになる。つまり、我が国の租税法上、「法人」に該当するかどうかは、私法上、法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。」とした。


外国LLCは実質で判断すべき


 また、「外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては、基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当」として、問題のLLCについては、アメリカのニューヨーク州法の内容とそのLLCの実質に基づき判断するのが相当とする判断を示した。


契約等の当事者になるLLCは法人



 そして、問題となったLLCについては、ニューヨーク州のLLC法に基づき、その名において、@訴訟当事者になること、A財産を取得し、処分すること、B契約を締結する機能を有していること等から、ニューヨーク州のLLC法上は、法人格を有する団体として規定されており、自然人とは異なる人格を認められ、実際に自己の名において契約をするなど、構成員からは独立した法的実在として存在していることが認められるとした。
 それらからすると、このLLCは、ニューヨーク州法上法人格を有する団体であり、日本の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当であるとした。


LLCの分配金を配当所得と認定



 次に、LLCからの分配金の「配当所得」該当性については、分配金を実質的に判断すると、問題になっているLLCにおいて、不動産賃貸業を営む上での賃貸ビルの市場価額が増加し含み益が生じたことや、不動産賃貸業による利益が計上されたことを背景に、余剰資金をその出資者である構成員に利益の配分をしたものと認めるのが相当であるとした。
 また、アメリカにおいては原則として、パス・スルー方式を選択したLLCは、構成員に対し非課税で資金を分配することができることから、LLCの構成員は、税務上、それが利益の分配に当たるか、出資金の払戻しに当たるかを基本的に考慮することなく、LLCからの資金の分配を受けることが可能であると認められると指摘。
 そして、この裁判の原告であるLLCの構成員は、依然としてLLCの構成員としての地位を維持しており、今後の利益や損失の負担、解散時の財産の配分等については、従前と同様に構成員間では当分の割合による権利義務があることを自認しているとみられることから、分配金の一部が出資金の払戻しに該当するとはいえないとして、「配当所得」との判断を示している。


判断の場は高裁へ


 この事案は、まず関東信越国税不服審判所で、課税当局の更正処分は適法であるとの判断が示され、構成員である納税者の主張が棄却されている。そして地裁においても納税者の主張は受け入れられず、納税者側の控訴によって判断の場が東京高裁に移されている。新しい事業体として注目されるLLCの初の司法判断であり、その結果が注目されるところだ。


(以上参考;週刊「税務通信」第2985号)
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