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                                               2007年6月06日
 


住所を争点とする訴訟で注目判決

 東京地裁 課税処分を取り消す

 贈与のあった時点で日本国内に住所を有していたか否かを争点とし、贈与税の回避が行われた訴訟で、東京地裁は納税者の主張を認める判断を示し、課税処分を取り消す判決を行った。(平成17年(行ウ)第396号 平成19年5月23日判決言渡)。
 これは、自分の親からオランダの有限責任非公開会社株式を贈与された者が、贈与税を課税されないことに対し、その贈与を受けた日には香港に在住しており、日本に住所を所有していなかったので、当時の相続税法によれば納税義務を負わないとして、課税処分の取り消しを求めていた事案。
 東京地方裁判所の鶴岡稔彦裁判長は、贈与税回避の目的その他課税当局の指摘する事情を考慮しても、贈与のあった日に原告である納税者が日本国内に生活の本拠を有していたと認定することは困難であるとして、課税処分を取り消している。


 贈与時の住所が問題に

  この事案では、贈与を受けた日に原告である納税者が居住していた場所が、日本国内であるのか、香港であるのかが争点となっている。
 事案において贈与のあった日は平成11年12月とされるが、当時の法律では、相続又は贈与により財産を取得した際に日本国内に住所を有していない場合には、取得した財産のうち日本国内にあるもののみが課税対象とされており、国外の財産は課税対象とされていなかった。よって、原告がオランダの会社の株式の贈与を受けた時点で居住していた場所が日本国内であるのか、香港であるのかが問題となった。

 課税当局は住民票の記載事項ではないと主張

 課税当局は贈与を受けた者の住所がどこにあるかについて、住民票の記載事項により判断するのではなく、「生活の本拠」を住所、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等の客観的事実に加え、本人の居住意志・目的も考慮して、総合的に判断することとなると主張した。
 そして、贈与税に関する住所の認定に当たっても、贈与税が贈与によって財産が移転する機会に、その財産に対して課税されるとした場合、生前に財産を贈与することによって、相続税の負担を回避することができるという税負担の回避を封ずることを目的としていること、が考慮されてしかるべきとした。


 生活の本拠は総合的に判定すべき
 
判決では過去の最高裁判例より、「住所」は「各人の生活の本拠を指すものと解するのが相当」であり、「生活の本拠」は、「その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すもの」としている。
 そして、「租税法が多数人を相手方として課税を行う関係上、客観的な表象に注目して画一的に規律せざるを得ないところからして、一般的には、住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等の客観的事実に基づき、総合的に判定するのが相当である」とした。
 その上で、原告である納税者が贈与を受けた日に日本国内に住所を有していたかを、「住居」、「職業」、「親族」、「資産の所在」、「居住意志その他原告の主観的事情」のそれぞれについて検討を行っている。


 贈与税回避があっても、生活の拠点は香港

 まず、「住居」については、原告の日本国内の自宅と香港の自宅ともに、生活の本拠として住居たりえるものとして、住居の点から原告の住所が国内にあったとすることはできないとした。
 次に「職業」についてであるが、原告が事案において問題とされる香港の滞在期間中の6割以上を香港に滞在して、香港の駐在役員として、また在香港の日本の子会社の代表者としての地位にあったこと等からすると、滞在期間中の職業活動は香港を中心としたというべきで、生活の本拠が日本国内にあったことを裏付ける要素は乏しいとした。
 また、「親族」についても、原告は独身で日本国内において生計を一にする親族を有していたとはいえないこと、「資産の所在」については、生活費等の支払が日本国内、香港の双方の銀行口座からされているから、生活の本拠が日本国内にあったか否かを判断するのは困難であるとした。
 さらに、「居住意志その他原告の主観的事情」についても、原告が現実に香港において駐在役員、代表者の地位にあって業務に従事しており、その業務が贈与税の負担を回避するために作出された外形にすぎないとは認められないので、贈与税を回避することのみを目的として香港に滞在していたとは認定し難いとした。また、香港滞在の目的の1つに贈与税の負担回避があったとしても、現実に香港自宅を拠点として生活をした事実が消滅するわけではないから、租税回避を目的としていたか否かに、決定的な影響を与えるとは解し難いとした。
 そして、課税当局の課税処分は、贈与により財産を取得した時において国内において住所を有する者に対してなされたものではないとして、処分を取り消す判断を示している。

 
 
12年改正では国外であっても納税義務

 なお、平成12年の税制改正では、相続税及び贈与税の納税義務者等の特例が創設されており、日本国籍を有する相続人等については、原則として、国内に住所を有する者と同じ様に、その取得した財産を相続税及び贈与税の課税対象とする措置が講じられている。
 これは、相続発生前に財産を国外に移転し、国外に住所を有する子供に相続させたり、子供が国外に住所を移した後に、国外の財産を贈与させて租税を回避することに対応したもの。
 改正後は、相続、贈与により日本国外にある財産を取得した個人が、その取得時に国内に住所を有していない場合でも、その相続、贈与を受けた者が日本国内に住所を有していたときは、相続税、贈与税の納税義務があるとされている。

(以上参考;週刊「税務通信」第2970号)
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