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M&Aニュース

                                               2007年8月21日
 


全部取得条項付株式の取得時の課税関係は実質判断で

取得の対価として1株未満の株式を交付した後の当該株式の買い取りでみなし配当課税も

  上場企業の一部で、敵対的買収防衛策として、MBO(マネジメント・バイ・アウト:経営陣による買収)による上場廃止を選択する企業が出てきているが、その際に、TOB(株式公開買付け)に応じなかった株主の所有する株式を「全部取得条jこう付株式」に変更して取得することが行われている。
 全部取得条項付き株式の取得については、平成18年度税制改正において、取得の対価が発行法人の株式のみである場合には、譲渡益課税を繰延べ、みなし配当課税を行わない旨が規定されているところだ。
 そこで、買収に反対する株主の排除を目的とした全部取得条項付株式の活用では、取得の対価として「1株未満の株式」交付し、その後、発行法人がその1株未満の株式を現金で買い取ることも行われているようだ。
 しかし、1株未満の株式の金銭による買い取りで支払われる金銭が、実質的に全部取得条項付株式の対価であると認められる場合には、取得の対価として金銭が交付されたものとして取り扱われることとされており、みなし配当課税があるか否かについては実質判断となる部分もあることに留意したい。


取得条項付株式の取得に際し対価として株式のみが交付されるのであれば譲渡について課税繰延

 全部取得条項付株式とは、定款の定めにより株主総会の特別決議によって特定の種類の株式の全部を取得することができる種類株式で、会社法によって発行可能となったもの(会社法171、108@七)。
 基本的には、旧商法の株式の強制消却の手続きが会社法の実施で廃され、それに代わるものとして、全部取得条項付株式の取得と対価の交付+自己株式の消却という手続きとして整備されたものといわれている。
 M&Aの場面では、TOBに応じない株主の持分を最終的に強制的に取得する際に利用されるわけだが、株式譲渡所得が分離課税となる個人株主の場合、全部取得条項付株式の取得に際してみなし配当課税が行われるか否かは、制度を利用する発効会社側でも気にかかる点だろう。
 このようなケースでの全部取得条項付株式の課税関係について、現行の法令・通達の規定を当てはめれば、概ね次のように整理されるものと考えられる。


@ まず、既存の株式について、全部取得条項を付するためには、株主総会の特別決議により会社の定款を変更する必要があるが、会社法では定款変更に反対する株主に対して、株式買取請求権が認められている。(会社法116@二)
 この段階では、会社が反対株主から株式を買い取った場合には、相対取引となるため、みなし配当と譲渡損益の計上が必要となる。
A  次に全部取得条項付株式を発行した会社は株主総会の特別決議により全部取得条項付株主を取得することができるが、対価については、金銭以外の財産とすることもできる(会社法171)。
 そして、会社は「取得日」において、全部取得条項付株式の全部を取得することになるが(会社法173)、この段階では、全部取得条項付株式の取得の対価として株主に交付されるのが株式のみであり、取得した株式と交付された株式が概ね同額である場合には、譲渡損益は繰り延べられることとされており(所法57の4B三、法法61の2M三)、みなし配当課税については適用除外となっている(所法25@四、法法24@四)。
 したがって、規定上は、対価として欣然が交付された場合は取得株式と交付株式が概ね同額でない場合には、課税繰り延べが行われず、みなし配当と譲渡損益の計上が必要となるため、M&A等の実務ではそうならないように対応されているようだ。
B  また、全部取得条項付株式をM&Aで活用する場面においては、会社が全部取得条項付株式を取得する際に、その対価として1株未満の株式を交付し、その後、株主からの求めに応じる形で、その1株未満の株式を金銭で買い取ることが多いと言われている。
 この場合には基本的には、みなし配当は生じず(所令61@九、法令23B九)、株主側は譲渡損益の計上のみを行うこととなろう。 

1株未満の株式の買取りが株式交付か金銭交付かは実質判断が原則

 しかし、このように各段階での課税関係を踏まえれば、全部取得条項付株式の取得に際しては、結局、みなし配当課税は生じることはないともとれるが、以上の取引を一団の取引としてみた場合には、全部取得条項付株式の取得に際して、なお金銭を交付したものと認定される虞はあり、そのことを懸念する向きもあるようだ。
 この点、全部取得条項付株式の取得に際して、金銭が交付された場合であっても、その金銭が、取得の対価として株式を交付した場合に、1株未満の端数が生じたために、1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を買い取った代金として交付されたものである場合には、株式交付をしたものとする旨の取扱いが、18年度の法令改正に対応して新設されており、参考になるだろう(現行法基通2−3−1)。
 この取扱いを受けて、金銭交付が株式交付となれば、課税は繰り延べられるわけであるが、同通達のただし書きでは、「交付された金銭が、取得の状況その他の自由を総合的に勘案して実質的に株主等に対して支払う取得条項付株式の取得の対価であると認められるときは、取得の対価として金銭が交付されたものとして取り扱う」としている点に留意する必要がある。
 1株未満株式の買い取りに際し、実質的に株式交付であるのか金銭交付であるのか、という点について判断があるとの取扱いは、上記の取得条項付株式等の取得時のほか、組織再編関連でも同様の取扱いが示されているところだ(基通1−4−2)。
 これは、取得等の対価が株式のみである場合には、投資が継続しているとみうことができるのに対し、取得の対価に金銭等、株式以外の会社財産が含まれる場合には、特定の株主に対して恣意的に利益を移転する可能性もあるため、取扱いとして定められたものと考えられる。 したがって、全部取得条項付株式の取得であれば、すべからくみなし配当が生じることはないとまではいえないのであるから、それぞれの事案で個別の判断が必要だろう。


(以上参考;週刊「税務通信」第2978号)
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