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                                               2007年9月14日
 


東京地裁 相続税評価額による親族への土地譲渡で納税者主張を認める判決

著しく低い価額かどうか みなし贈与とした課税処分を取り消し

 東京地方裁判所民事第2部(大門匡裁判長)は8月23日、親族への土地譲渡が著しく低い価額の対価によるものかどうかで争われていた事件で、贈与税の決定・更正処分の取り消しを求めていた納税者の主張を認める判決を言い渡した。
 判決では、相続税評価と同水準の価額かそれ以上の価額の対価で譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡とはいえないとし、譲渡者が自己の所得税の軽減を意図し、また、親族に一定の利益を享受させる意思があっても、相続税法7条のみなし贈与の適用は左右されず、本件は明らかに異常で不当な租税回避を目的とした取引には該当しない、として国側の主張を退けた。
 負担付贈与通達については、硬直的に適用すると結果として本件のように違法な課税処分をもたらすことが考えられると指摘した。本事案は、18年5月24日裁決で納税者の請求を棄却している(裁決事例集bV1収録)。


路線価ベースの取引価額を不適切として贈与税処分


 相続税法7条では、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、対価と譲渡時の時価の差額を贈与で取得したものとみなすとしており、平成元年に制定された「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(法令解釈通達)で、土地等で個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、取得時の通常の取引価額に相当sる金額で評価すること、この対価を伴う取引が法7条の著しく低い価額の対価で譲渡を受けた場合に該当するかは、個々の取引について取引の事情や取引当事者間の関係などを総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかで判定することとしている。
 本件は、原告の親族が平成13年に購入した土地を15年12月25日に原告らへ譲渡、その譲渡代金の算定根拠が路線価によるものであったため、相続と異なり対価を伴う取引の場合に相続税評価額を適用することは適切ではないなどとして、贈与税の決定・更正処分を受けたことによる。
 原告・納税者は、相続税法7条が適用されるとしても、贈与税課税は相続税評価額と譲渡価額との差額で行うべきであること、負担付贈与通達の制定時とは不動産状況が異なるため通達の適用は条件を欠いているなどとし、著しく低い価額で譲渡を受けた場合には該当しないとして処分の取り消しを求めていた。


相続税評価額以上なら著しく低いとはいえないと判断


 裁判では、相続税法7条が規定する時価の意義と著しく低い価額であるかの判定基準、本件の譲渡代金が時価よりも「著しく低い」価額の対価であるかどうかが争点となった。
 裁判所では、まず、相続税法にいう時価は7条においても常に客観的交換価値を忌みするものとしたうえで、時価(時価公示価格)より20%程度低い相続税評価額で譲渡することは、その面だけをみれば経済合理性にかなったものとは言いがたいとしながらも、80%は社会通念上、基準となる数値と比べて一般に著しく低い割合とはみられてはいないこと、相続税評価額は土地取引のひとつとなりうる金額であることから、これと同水準の価額を対価とすることに経済合理性がないとはいえないとし、評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡であるとはいえないと判断した。
 国側が、相続税評価額が地価公示価格と同水準の80%であるという差を利用し、実質的には、贈与税の負担を免れつつ贈与と同じ利益の移転が可能となる、と指摘している点も疑問であるとし、同法7上が、著しく低い価額に至らない低い価額の譲渡を許容していることを考慮していないもので妥当でないとした。


贈与や租税回避意思の有無は無関係


 一方、本件の親族への土地譲渡について国側は、譲渡した親族が土地の譲渡損失の損益通算が廃止される(平成16年)前に譲渡損失を確定させ、親族間における資産構成を変えることを目的としていること、取得価額を1億円余も下回る価額で売却する合理的な理由はなく、第三者へ譲渡したとした場合との差額相当の利益を原告らに享受させたものであるから、相続税法7上にいう「著しく低い価額」の対価による譲渡に該当すると主張した。著しく低いかどうかは、単に時価との比率だけでなく、「実際に贈与を受けたと認められる金額」の有無で判定すべきであるということだ。
 国側は、譲渡者に所得税の軽減という明確な意図があったこと、親族に利益を享受させる意図で売買したことなどを相続税法7上の適用根拠としたわけだが、裁判所は、贈与や租税回避の意思の有無で適用が左右されることはないとして主張を退けることとなった。売主の事情を、買主である原告への贈与税課税の根拠とすることも疑問だとしている。


負担付贈与通達の硬直的・形式的適用を問題視


 また、裁判所は、譲渡者が平成13年8月に土地を取得してから15年12月に原告へ譲渡するまで2年以上の期間が経過していること、原告が取得したのは第三者が使用している建物の敷地である土地の持分で、容易に換価できるものでなく、実際に換価していないこと、譲渡者が売買で流動資産を増やしたいというのも一応合理的な理由があったといえる点などからも、明らかに異常で不当な取引であると認めることはできないとした。
 国側が課税の根拠とした負担付贈与通達については、実際に贈与を受けたと認められる金額があるかという判定基準は、相続税法7上の趣旨にそったものとはいい難く、基準とsちえも不明確などと指摘。
 通達は、個々の事案に応じた判定をすることになっているので直ちに違法・不当であるとはいえないとしながらも、「個々の事案に対してこの基準をそのまま硬直的に適用するならば、結果として違法な課税処分をもたらすことは十分考えられるのであり、本件はまさにそのような事例である」としている。



(以上参考;週刊「税務通信」第2983号)
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