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M&Aニュース

                                               2007年9月20日
 


負担付贈与通達は従来どおり個別事情等を総合勘案

相続税評価額による親族間土地譲渡裁判で注目された負担付贈与通達低額譲受へのみなし贈与課税巡る争い 原告主張認めた判決は確定したが

 贈与税の課税処分を取り消した8月23日の東京地方裁判所の判決が確定した。課税庁サイドは法務当局との協議により控訴する理由がないと判断、本件は東京地裁判決で納税者の勝訴が確定することとなった。
 この事件により、国側がみなし贈与課税の根拠とした負担付贈与通達について、今後何らかの影響があるのか注目されたが、国税庁では同通達による取扱いは従来どおりであるとしており、通達の見直しや廃止などといった対応はないことが確認された。
 著しく低い価額の対価で譲渡があったかどうかは、個々の取引について取引の事情や当事者間の関係等を総合勘案し、実質的には贈与を受けたと認められる金額があるかどうかで判定する、との取扱いは今後も変わりはないということだ。
 本件が納税者勝訴で確定したからといって、相続税評価額相当額かそれ以上、あるいは時価の80%程度の対価であればみなし贈与課税の適用はない、ということにつながるものではないので注意したい。


裁判で注目された負担付贈与通達の動向


 事件は、親族への土地譲渡が相続税法7条のみなし贈与の適用を受ける著しく低い価額による対価で行われたかどうかで争われたもの。裁判所は、相続税評価額と同水準かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡といえないなどとして、原告の主張を全面的に認める判決を言い渡した。
 判決では、国側が、個別通達「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」が適用される結果、みなし贈与課税が適用されるとした主張も退けることとなった。
 そのため、このいわゆる負担付贈与通達については、今後、何らかの見直しが行われる可能性があるのではないか、実質的に贈与を受けたと認められるのはどのような場合なのか、通達の適用範囲を明確化する必要があるのではないか、などといった指摘がされていた。


裁判所判事は負担付贈与通達の趣旨と同じ


 この点について、国税庁では、判決で次のように判じされたこと、本件へのあてはめにおいても個別事情を総合的に検討した結果のものであると認識していることからも、本件判決によって負担付贈与通達の改廃などが行われるものではないとしている。
 まず、判決では、相続税法7条にいう「著しく低い価額」の対価であるかについては、「その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきである。」
 と判示している。
 裁判所が示したこの考え方は、負担付贈与通達の基本的なスタンスとなんら変わらないものであるということだ。
 本件へのあてはめでも、裁判所は、租税の公平負担の要請から実質的にみても、売買の代金額と土地の時価や相続税評価額との比較に加え、@譲渡者が13年8月に購入してから15年12月に譲渡するまで2年以上経過していること、A原告が取得したのは土地の持分で容易に換価できるものでなく実際に換価していないこと、B譲渡者に税負担軽減や贈与の意思があったとする国側主張を前提としても、売買をしたことには流動資産を増やしたいとの一応合理的な理由があったことなどの事情を考慮すれば、本件売買が、明らかに異常で不当といえるような専ら租税負担の回避を目的として仕組まれた取引であるとはいえない、と判断した。この点からも、負担付贈与通達の2項が取引の事情等を総合勘案して判定することを支持しているものと見ているわけだ。


割合・金額等だけでなく取引事情・状況を総合勘案して判定


 本件においては、相続税評価額と同水準かそれ以上であれば「著しく低い価額」の対価ではないとして納税者主張が認められる結果とはなったが、この点は判断要素のひとつであることに注意しておく必要がある。
 単純に時価との乖離が20%程度の範囲内なら贈与課税はないということにはならないわけで、通達の適用は、こうした割合だけの問題ではなく、あくまでも個別要素の検討を積み重ねて判断されることになるといえる。
 負担付贈与通達2項の「注書き」で、対価の額が土地等の取得価額を下回る場合には、土地等の価額が下落したことなど合理的な理由がある場合を除き、著しく低い価額の対価で譲渡を受けた場合に該当する、としている点は、形式的な判断基準のひとつを例示しているものということで、下落した場合だけを合理的な理由として除外するものではないということだ。2項本文にあるように、取得価額より取引の対価が下回ることに合理的な理由があるかは、取引の事情等を総合勘案して判定されることにあんる。
 本件の判断要素となった上記@〜Bにつちえ、仮に、取得してから直ぐの譲渡であったり、あらかじめ買い手がいて譲受者がさらに譲渡するなどしていれば事情は変わってこよう。
 本件では、15年12月の譲渡の前、平成14・15年に約5%ずつ原告らに贈与が行われている。実際の金額についても、本件は譲渡者の取得価額約4.4億円、原告らへの譲渡による損失は1億円余だった。桁がひとつ違っていた場合に同じような判決になるか、金額の多寡が問題視されることも考えられる。
 なお、通達1項について原告は、通常の取引価額を基準として評価することは違法で不当との主張を行ったが裁判所は、相続税法7条にいう時価は客観的交換価値のことを意味するので、同法7条の観点からみる限り正当であるとした。
 ちなみに、財産評価基本通達では、負担付贈与または個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式の評価は課税時期の最終価格とするとしていて(169(2))、通常の贈与の場合の評価と区別しているが、この取扱いにも影響は生じないということになる。


(以上参考;週刊「税務通信」第2984号)
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