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M&Aニュース

                                               2007年11月05日
 


東京高裁 米国LLCを一審に引き続き租税法上の法人と認定  分配金についても一審同様、配当所得との判断を示す



LLCに対する同様の出資事例にも影響か

 アメリカに設立されたLLCの法人該当性と、その分配金の所得区分を主な争点とした訴訟の控訴審で、東京高裁は一審のさいたま地裁に引き続き課税当局を支持、納税者の控訴を棄却する判決を行った(平成19年10月10日判決言渡 平成19年(行コ)第212号)。
 事案において争点となったのは、ニューヨークのLLC法に基づき設立されたLLCの不動産賃貸業から生じた損益が、そのLLCに帰属するのか、それともLLCの構成員に帰属するのか。また、LLCから日本に居住する構成員へ送金された分配金が配当所得に該当するのか否かも争点となった。
 一審のさいたま地裁は、問題となったLLCを日本の租税法上の「法人」と認定、不動産賃貸業から生じた損益はLLCに帰属するとし、分配金についても配当所得に該当するとの判断を示していた。
 今般、東京高裁第20民事部じゃ、一審の判断と同様であるとの判断を示し、納税者の控訴を理由がないとして棄却、一審に引き続いて、課税当局の処分を適法とする判断を示した。
 海外のLLCに対する出資に関連しては、LLCから生じた不動産所得を所得の計算上、損益通産を行い申告をし、税務上の指摘を受けたとの報道もあることから、今回の判決が、それらの事実に対して与える影響が少なくないものと考えられる。


新しい事業体として注目されるLLC


 この事案において問題の中心となっているLLCは、近年のアメリカにおいて投資手段の一つとして注目されている有限責任会社。
 LLCにおいては、株式会社における株主が法人債務に対する責任を保護されることと同様、出資者は有限責任とされており、また、アメリカにおいてはチェック・ザ・ボックス規則によって、法人課税か構成員課税(パス・スルー)かを自由に選択できるという大きなメリットもあり、アメリカでは50州総ててLLCに関する法律が制定されている。


一審の判断を踏襲、法人格を認める


 事案におけるLLCは、アメリカのニューヨーク州法に基づき組成されており、そのLLCの不動産賃貸業より生じた損益が、LLC自体に帰属するのか、日本に居住するLLCの構成員に帰属するのかが問題となった。
 この点について、一審のさいたま地裁は、法人格の有無によって日本の租税法上の「法人」に該当するかを判断するべきであり、また、外国の法人格の有無の判定に当たっては、外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当とした。
 そして、事案におけるLLCは、訴訟当事者になることができること、財産を取得し処分すること、契約を締結する機能を有していること等から、ニューヨーク州法においても法人格を有する団体として規定されており、構成員からは独立した法的実在として存在していることが認められ、日本の租税法上の法人に該当することした。
 今回の高裁判決においても、この一審の判断を引用し、地裁と同様の判断を示している。さらに、納税者の主張にある、LLCがパートナーシップ課税を選択していることをもって、日本の租税法上の外国法人と認定することは相当でないとすることについては、アメリカではLLCがチェック・ザ・ボックス規則によって、法人課税か構成員課税(パス・スルー)かを自由に選択できることからすれば、パートナーシップ課税を選択していることが、そのLLCが法人か否かの判断基準になるとはいえないとし、納税者の主張を退けている。


LLCの分配金を配当所得と認定


 また、LLCからの分配金についても、一審の判断理由を引用して「配当所得」に該当するとの判断を示している。
 一審では、分配金を、実質的にLLCの営む不動産賃貸業の賃貸ビルの市場価額が増加して生じた含み益と、不動産賃貸業による利益が計上されたことにより、余剰資金をその出資者である構成員に配分したものと認めるのが相当としたが、高裁もこの考えを引用したかたちだ。
 よってLLCの構成員が、引き続きLLCの構成員としての地位を維持し、今後も利益や損失の負担、解散時の財産の配分等について、これまでと同様に構成員間で当分の割合による権利義務があることを自認しているとみられること等の理由により、分配金は「配当所得」と判断されたこととなる。


国税庁はLLCを原則法人と判定


 国税庁は、同庁のHPでLLC法に準拠して設立されたアメリカのLLCについて、米国の税務上、そのLLCが法人課税またはパス・スルー課税のいずれかの選択を行ったかにかかわらず、原則的に日本の税務上は外国法人として取り扱うのが相当としているが、今回の訴訟においても、同様の考え方が示されたといえる。
 海外のLLCへ投資をし、そこから生じた不動産所得を用いて損益通算を行う事例はこの他にもあるとされていることから、今回示された司法判断は、それらの事例に対しても与える影響が大きいものと考えられる。なお、会社法で定められた合同会社、いわゆる日本版LLCは法人格を有することから法人課税を受けることとされている。



(以上参考;週刊「税務通信」第2989号)
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