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                                               2008年3月21日
 


東京高裁 海外居住を認め課税処分を取り消す

住所の判定について、類似事案と異なる判断を示す

 株式を譲渡した時点で日本国内に「住所を」有していたか否かが争われた訴訟の控訴審で、東京高裁は一審の東京地裁に引き続き納税者を支持、生活の本拠は日本国内ではなかったとして、課税処分を取り消した(平成20年2月28日判決言渡 平成19年(行コ)第342号)。
 事案は、株式の譲渡契約実行日に、日本国内に住所を有していたのか、シンガポールに住所を有していたのかが争点となっていた。
 東京高裁第7民事部の大谷禎男裁判長は、一審の東京地裁判決と同様に、株式譲渡時の国内居住を否定、所得税法に規定する居住者であることを前提にした課税処分を違法とする判断を示した。
 東京高裁は、贈与時の住所が問題となった別の事案で、国内に住所を認め課税処分を適法とする判断を示しており、住所の判定を争点とする類似事案で、同高裁で異なる判断が示される結果となった(ただし、それぞれ別の裁判官が判断している)。
 既に贈与の事案は最高裁へ上告されており、今回判決のあった事案も上告される可能性が高く、最高裁が「住所」について、どのような解釈を示すのかが注目されている。


居住者は全世界所得課税


  所得税法では、すべての所得について所得税を課す「居住者」を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」と規定している。そして、今回の判決では一審の判断を引用して、株式の譲渡時に国内に住所を有していたとは認めることはできず、また、譲渡時に国内に引き続いて1年以上居所を有していたとも認められないとして、課税処分を違法と判断している。


住所とは生活の本拠


 判決では、最高裁判例を示して、「住所」について「各人の生活の本拠を指すものを解するのが相当」とし、「生活の本拠」については「その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すもの」をいうとした。
 そして、一定の場所がある者の住所であるか否かは、租税法が多数人を相手方として課税を行う関係上、客観的な表象に着目して画一的に規律せざるを得ないところからsちえ、一般的には、「住居」、「職業」、「生計を一にする配偶者その他の親族の居所」、「資産の所在等の客観的事実」に基づき、総合的に判定するのが相当としている。


国内に住所を有していたか


 事案における生活の本拠の検討においては、まず@住居について、譲渡時に生活の本拠が日本国内にあったことをうかがわせる事情が幾つか存在するものの、その当時、日本国内に住居はなくむしろシンガポールにあったと認められるとした。
 次にA職業については、日本国内における事業が不調であり、インターネットによる取引により、シンガポールにおいて株式取引を開始した時点でその生活の本拠がシンガポールに移転したものと見ることが可能としている。
 また、B日本国内の生計を一にする配偶者その他の親族の存在については、日本国内において生計を一にする家族又は親族は存在せず、継続して居住するに適する場所を有していなかったとし、C資産の所在等についても、日本に所在する資産についてもシンガポールに居住しながら管理することが困難とまではいえないとして、日本国内に住所を有していたとは認めるには足りないと結論づけている。


国内に引き続いて1年以上居所を有していたか


 判決では、所得税法で「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」規定されていることから、株式譲渡時まで引き続いて1年以上居所を有していたかについても検討が行われている。
 検討では、その間にも在外期間が含まれる場合には、在外期間中も、日本国内にそれまで生計を共にしていた配偶者その他の親族を残し、再入国後生活する予定の居住場所を保有し、又は、生活用動産を預託していて再入国後直ちに、従前と同様の生活をすることができる状態にあるなどして、一時的な出国であることが明らかであることが必要とした。
 そして、事案においては、日本国内に複数の不動産を所有していたが、いずれも再入国後生活する予定の居住場所ということはできないしと、日本国内に配偶者その他生計を一にする親族もいなかったこと、また、そもそも株式の譲渡前にシンガポールに出国したのは、その後、相当長期にわたってシンガポールを生活の本拠とするためにしたものと認められることからすると、譲渡の時に日本国内に引き続いて1年以上居所を有していたとは認められないとしている。


注目される最高裁の判断


 今回の判決でも住所がどこであるかの判定は、居住目的ではなくその者の生活の本拠がどこであるかを総合的に判定すべきものとの判断が示されているが、類似した事案で異なる司法判断が示されていることから、今後予想される上告審での判断が注目されることとなった。
 経済のグローバル化・ボーダーレス化が進み、生活形態が多様化する今日、住所の意義について、最高裁がこれまでの考え方を示すのか、また両事案についてどのような判断をするのかが注目される。


(以上参考;週刊「税務通信」第3008号)
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