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                                               2008年5月14日
 


東京高裁 運用財産のみの出資評価認める判決

解散時の基本財産を国へ帰属とする定款等から運用財産で評価

 東京高等裁判所第21民事部(濱野惺裁判長)は3月27日、社団医療法人の増資時の出資評価を巡る争いで、運用財産のみで評価した納税者の主張を認める判決を行った。増資を著しく低い価額で引き受けたとして贈与税決定処分を受けた納税者が取り消しを求めていたもので、一審の横浜地裁では請求を棄却していた。
 東京高裁は、医療法の規定と、本件医療法人が定款によって、退社時には運用財産について出資額に応じた払戻し請求ができること、解散時の基本財産は国等に帰属するとしていることなどから、出資持分の評価にあたり、基本財産と運用財産とを区分しないのは相当でないと判断して国側の主張を全面的に退けた。
 また、脱税目的の区分は重加算税の対象となると指摘したが、租税回避に該当しても同族会社の行為計算否認に該当しなければ、財産を全体で評価する取扱いを一律に適用して否認することは許されないとした。
 こうした定款に変更することで相続税対策が可能になるとの見方もあり、出資額限度法人との関係からも、定款の定めを重視することには違和感があるとの指摘もされる。相続税法の時価評価の原則に基づく現行の評価実務を覆す判断であることから、国側は上告しており、今後の最高裁判所の対応が注目される。


定款を変更し基本財産の帰属を国等と規定


 本件医療法人の変更前の定款では、退社した社員は出資額に応じて払戻しを請求できること、払戻し請求にはまず運用財産から支弁し、不足する場合には基本財産を処分して支弁すること、解散時の残余財産は社員の3分の2以上の同意と県の許可を得て出資額に応じて社員に帰属させると規定していた。
 これらの規定について、医療法人は増資の前年に定款の変更を行い、社団の財産を基本財産と運用財産に分けて基本財産の処分を禁止、剰余金は基本財産に編入等し配当を禁止するとした。そして、退社時は運用財産について出資額に応じた払戻し請求ができるとし、解散時の残余財産のうち基本財産は国若しくは地方公共団体に帰属し、知事の許可を得て帰属先を定めること、残余財産の中に運用財産があれば出資額に応じて社員に分配すると定めた。


運用財産ベースでは出資はマイナス評価に


 こうした定款変更の背景には、創業者の出資払戻し請求に対応できるようにすること、基本財産を出資払戻請求の対象外として法人の存続を図る目的があった。さらに、後継者による経営の安定のため、出資持分の過半数を取得する必要があったことから、従前の出資割合とは異なる増資割当てが行われた。
 納税者は、基本財産を除き運用財産だけで算定すると債務が上回ることから、1口当たりの評価額を実際の出資払込金額である5万円とし、出資金は110万円ほどとなるため、贈与税の申告をしなかった。
 これについて国側が、医療法人は大会社に該当することから、純資産価額ではなく類似業種比準方式が適用されるとし、増資後の持分を1口当たり379万円と認定、出資持分割合が変わり、増加した者の持分の価値が増加することから、著しく低い価額の対価で経済的利益を受けた場合に該当するとして贈与税の決定処分を行ったことで争いとなった。


地裁は基本財産だけの出資持分評価は認めないと判断


 横浜地方裁判所では、一定の公益目的に基づき贈与税の非課税財産を定めた相続税法の規定は、出資者が増資で取得した経済的利益をあげていないこと、増資による経済的利益の移転という局面をみれば営利法人と異なる事情があるとはいえないとし、医療法人には非営利性や公共性、公益性、永続性といった特質があるとしても、経済的利益の移転による課税を排除することはできないとし、納税者の主張を退けることとなった。
 社員総会の承認で出資持分の譲渡は可能であり、その金額の制限はないこと、社員の死亡時は持分が相続されることなどから出資持分には一定の交換価値があり、法人には運用財産のほかに基本財産が存在する以上は、運用財産のみを基にして出資持分の評価をすべき理由はないと判断されることになったため、納税者が控訴していた。


医療法と定款で権利の内容を判断し国側主張を退ける


 控訴審において国側は、医療法人における基本財産と運用財産の区分に客観的・合理的な基準はないこと、定款で基本財産として区分された資産でも、法人の判断で将来運用財産に変更される可能性が十分に考えられ、運用財産に変更して換価処分できるとし、出資の価額の算定上、基本財産として管理される財産が存在することは、客観的交換価値を測定するうえで考慮すべき要素には当たらないことから、出資の時価は基本財産を含む全財産を対象とすべきとの主張を行った。納税者側が主張する運用財産だけによる評価は時価とはいえないということだ。
 しかし、東京高等裁判所は、医療法人が変更後の定款によって所有資産を基本財産と運用財産とに明確に区分して内訳書を作成、財産目録等の計算書類や、会計帳簿も明確に区分管理していることなどから、増資時の出資1口の客観的な交換価値は運用財産の評価額から負債合計額を控除した額を基準として評価するのが相当であるとし、基本財産と運用財産とを区分しない純資産価額を基準とするのは相当とはいい難いとした。
 医療法に定めがなければ定款の定めで権利をみるということで、社員の退社時や法人の解散時を定めた変更後の新定款と、医療法が剰余金の配当を禁止していることなどを踏まえれば、評価額は実際の出資金額5万円を上回るものではなく国の評価は客観的な価値を超える過大な評価であると結論づけた。
 さらに、判決では、仮に脱税目的で財産区分をした場合は脱税として摘発し、重加算税などの措置をとるべきであるとしたが、定款変更で区分するとしたことが租税回避に該当するとしても、同族会社の行為計算否認に該当するものでなければ、課税庁が根拠となる否認規定が存在しないのに、評価通達により財産を全体で評価する取扱いを一律に適用して否認することは許されないとした。
 変更後の新定款がさらに変更される抽象的な可能性があることを根拠に処分の適法を主張するにとどまるものと指摘、納税者の主張と立証の経過からも、新定款の定めの適用についても個別具体的に問題視する点はないとしている。





(以上参考;週刊「税務通信」第3015号)
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