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                                               2008年8月1日
 


日税連 主税局と相続税の課税方式の見直しにかかり意見交換

 平成21年度の税制改正では、事業承継税制の創設とあわせて、相続税の課税方式の見直しの検討が予定されている。
 現行課税方式については、、@1人の相続人の申告漏れにより他の相続人にも追徴税額が発生する、A相続額が同額でも法定相続人数の違いにより税負担に不均衡が生じる、B特例措置の効果として事業の後継者以外の相続人の税負担も軽減することになるといった問題が指摘されており、日本税理士会連合会の税制改正についての建議書においても、「遺産取得税法式に変更すること」が要望されている。
 こうした状況のもと、財務省主税局では、見直しに向けて、税理士会をはじめとする有識者からヒアリングを行い、課税方式を改めることにした場合の主な法制的・実務的論点の洗い出し作業を行っている。
 日本税理士会連合会のHPには、課税方式を改める場合に現時点において考えられる法制的・実務的論点としてどのようなものがあるかについて有識者からヒアリングをおこなった結果を主税局が整理した「相続税の課税方式の見直しに伴う主な法制的・実務的論点(有識者からのヒアリング結果)」が掲載されている。


遺産取得課税方式とした場合の論点
1.税額計算の基本構造
 (イ)基礎控除の基本構造
 (ロ)被相続人との身分関係に応じた基礎控除・税率等
 (ハ)配偶者に係る負担軽減のあり方
 (ニ)生命保険金・死亡退職金に係る負担軽減のあり方
 (ホ)特例措置等(小規模宅地、農地に係る納税猶予等)に係る負担軽減のあり方
 (ヘ)各種控除(配偶者控除、未成年者控除、障害者控除)の形態
2.未分割での申告
3.仮装分割・仮装未分割等への対応
4.遺贈
5.普通養子
6.申告納税地
7.申告書
8.連帯納付義務


1 税額計算の基本構造

(イ)基礎控除の基本構造
@ 【基本構造】
 遺産取得課税方式とした場合には、基礎控除は遺産から控除するのではなく、財産取得者ごとに控除することになると考えられ、相続等により財産を取得した者ごとに、基礎控除額を設定し、基礎控除後の課税価格に税率を乗じて税額を計算することになる。
A 【控除額の設定方法】
 基礎控除額の設定方法については、財産取得者1人当たりの金額を固定的に設定する方法が基本形と考えられる。
 現行方式からの変更の影響を考えた場合、法定相続人数により計算した現行の基礎控除額を相続分又は取得財産価額の比で各人に按分する方法をとれば、影響が少ないと考えられるが、この場合には、法定相続人数により税負担が異なるという問題点は解決できないこととなる。
B 【基礎控除の基本構造と申告義務の有無の判断基準】
 取得者ごとに基礎控除を設ける場合、ある者が基礎控除額以上の財産を取得し、別の者が基礎控除額以下の財産しか取得しなかった場合には、同一の相続に係る財産取得者について相続税の申告をする者と申告しない者が出てくる。
 税務調査等によって事後的に申告義務が生じた場合に、当初申告がないと無申告加算税の対象となることを踏まえると、相続人のうち1人に納税義務があるときには、仮に税額がゼロであっても他の相続人全員に申告又は報告が必要になると考えられる。
 また、課税当局側でも、全体が分からなければ、適正な調査等ができないことが考えられる。さらに未分割の場合の申告や配偶者控除の適用においては、納税者としても全体の把握ができないと困るのではないかと思われる。

(ロ)被相続人との身分関係に応じた基礎控除・税率等

 仮に、取得者ごとに基礎控除を設けるとした場合、取得者と被相続人との身分関係に応じて控除額や税率等について差異を設けるのか。また、差異を設けるとした場合、どのような区分・差異を設けるのか。
 相続に対する期待度、財産形成等への貢献度、世代飛ばしに対するペナルティー的なものを考慮した場合、財産取得者と被相続人の身分関係に応じて基礎控除額や税率等に差を設けるのは、特に不自然とは言えないとも考えられ、例えば、基礎控除額は、配偶者、配偶者以外の法定相続人、受遺者などの区分で差を設けてもいいのではないか。

(ハ)配偶者に係る負担軽減のあり方
@ 【控除方式】
 負担軽減は、税額からの控除方式、課税価格からの控除方式のいずれとするのか。
 配偶者は法定相続分までの財産取得については税負担が生じないとしうのが一般的理解だとすると、課税価格からの控除方式が受け入れられやすいか。その一方、現行の考え方を継続し、配偶者の法定相続分までの財産取得について税額を控除することとしてはどうかとの意見もある。
A 【控除額の設定方法】
 控除額についてはどのような形(法定相続分を考慮した形とするか等)で設定するのか。
 社会の実態としては、夫婦の財産は共有であり、配偶者が2分の1を取得するのは潜在的持分の精算と考えられ、配偶者の法定相続分の財産取得に十分配慮すべきと考えられる。
B 全体財産の把握の必要性
 現行と同様、法定相続分をベースとして税負担を軽減するとした場合、納税者、課税当局ともに、税額計算を行うに当たり、相続に係る全体財産の課税価格を把握する必要があるが、どのように把握するか。
 控除額の計算方法については、遺産全体の総額が分からないとその法定相続分が求められず、配偶者控除の額が決定できないことになるため、相続税の申告の際には、遺産総額が分かるようにしておく必要がある。

(ニ)生命保険金・死亡退職金に係る負担軽減のあり方

 生命保険金・死亡退職金ともに、現行のように取得額が同じであっても法定相続人数によって遺産総額から控除される額が異なるのは不合理であり、取得者一人当たりの控除額を固定して設定する方法が遺産取得課税方式の考え方に合致するのではないか。

(ホ)特例措置等(小規模宅地、農地に係る納税猶予等)に係る負担軽減のあり方

 遺産取得課税方式による場合には、特例適用対象宅地や農地の取得者以外の者に減税効果が及ぶのは不合理であると考えられ、これら特例の計算方法も見直さざるを得ない。
 また、仮に株式等と農地につき納税猶予額の計算方法を同じくした場合には、農地の納税猶予額は現行よりも相当圧縮されることとなり、特に都市部で、賃貸用不動産など農地以外の財産がある場合には現状よりも猶予税額が圧縮される。

(ヘ)基礎控除の基本構造

 負担軽減は、税額からの控除方式とするか、課税価格からの控除方式とするか。
 課税価格からの控除方式を採用すると、多額の資産を取得し適用税率が高い者の法が控除額が大きくなる。控除の趣旨から言えば、税額からの控除方式の方が適切ではないか。

2 未分割での申告
@ 【課税価格の計算】
 課税価格については、現行と同様に相続人が相続財産を民法に定める相続分に従って取得したものとして計算せざるを得ないのではないか。ただ、この場合は後述のとおり未分割の状態が全員の税額合計が最も少なくなるため、未分割での放置に対してどのような対処をしていくのか等の問題がある。
A 【未分割の場合の申告義務】
 現行、財産が未分割の場合は、原則として各取得者の税額計算において税額が生じる場合に申告義務がある。
 未分割の場合の課税価格について、現行と同様、相続人等が未分割財産を法定相続分等に従って取得したものとして算出するとし、また、基礎控除については取得者ごとに設定した場合、未分割時の課税価格が基礎控除以下であったとしても、遺産分割後の課税価格が基礎控除を上回る可能性がある。基礎控除を各人ごとに設定した場合に、法定相続分に従って計算した各人ごとの課税価格が基礎控除以下であれば、基礎控除以下の者は単に申告義務がないとしてよいか。それとも、全員に申告義務があることにすべきか。
B 【全体財産の把握の必要性】
 未分割の場合の課税価格について、現行と同様、相続人等が未分割財産を法定相続分等に従って取得したものとして算出するとした場合、納税者や課税当局が税額計算を行うに当たり、相続にかかる全体財産の課税価格をどのように把握するか。
C 【未分割で申告された事案のフォロー】
 未分割で申告された後、分割されるまで課税当局、また、相続税の申告に関与した税理士がフォローすることとした場合、相当な負担が生じると考えられるが、どのように行うのか。

3 仮装分割・仮装未分割等への対応
@ 【仮装分割・仮装未分割】
 仮装分割について、実際の分割状況を課税当局が確認することが容易でないケースも想定されるが、税務調査の強化等で対応する以外に方法はないのではないか。
A 【未分割での放置等】
 遺産取得課税方式では相続人一人一人に基礎控除が設定されているので、法定相続分に従い分割するか又は未分割の状態が全員の税額の合計が最も少なくなるが、未分割の放置、遺贈の多様等による基礎控除以下の財産の創出などに対してどう対処していくのか。

4 遺贈
@ 【相続人と受遺者】
 受遺者と相続人とでは基礎控除に差異があってもよいのではないか。
 遺産取得課税方式において財産の取得者別に基礎控除を適用して課税することとすれば、養子(相続人の増加)及び遺贈(受遺者の増加)を利用した税負担軽減が可能になるが、これらをすべて直ちに租税回避行為とするのは適当ではないのではないか。
A 【世代飛ばし】
 世代飛ばし効果のある養子・遺贈については適切な税負担を求める必要があるのではないか。2割加算以外の方法も検討すべきと考えられる。

5 普通養子
@ 【税額計算上の扱い】
 基礎控除の額を算出するにあたり法定相続人数を関係させないのであれば、各人ごとの基礎控除、税率について養子と実子を区別する理由はないのではないかとの意見がある。ただし、養子による相続人の増加にどう対応するかが問題となる。
A 【世代飛ばし】
 遺産取得課税方式に移行した場合には、節税のための孫養子が増加することが考えられるため、何らかの対応が必要となる。
B 【未分割と養子】
 相続人を増やした上で未分割で申告するのが最も税負担が少なくなる方法であるが、このような未分割での申告に際し、普通養子を法定相続人に算入してもよいか。

6 申告納税地

 納税義務者・税理士・税務署とも、相続人がそれぞれの住所地で申告するより、被相続人の住所地で申告する方が便宜的ではないか。また、原則として被相続人の住所地で申告することとしつつも、例外的に相続人の住所地で申告を認めることとしてはどうかとの意見もある。


7 申告書
@ 申告義務
 取得者ごとに基礎控除を設けることを前提に、納税者の理解のしやすさという観点から、納税計算における基礎控除とは別に、遺産総額を基準とした申告義務の判定についての規定を設けてはどうか。
A 【添付書類】
 現行と同様、被相続人の死亡時の財産や共同相続人の財産についての明細の添付を求めてもよいのではないか。ただし、親族ではない受遺者については、遺産の全体の把握等は困難なことが多く、このような明細の添付を求めるのは酷であろう。
 また個別の申告となるとしても、遺産分割協議書や遺言は添付する必要があるのではないかとの考え方もある。
B 【申告書の提出方法】
 納税義務者ごとに申告書を提出することが原則であろうが、現行と同様、申告書の連署方式による共同提出も認めた場合には、申告事務及び税務調査の事務負担が軽減されると考えられる。
 ただし、法定相続人以外の者が遺言により財産を取得した場合は、その受遺者は共同申告には馴染まないと考えられる。

8 連帯納付義務

 以下の問題点、論点がある。
 当初の申告時に、納税義務者が連帯納付義務について認識していない。
 連帯納付義務を課しておきながら、共同相続人の相続税の納付状況について分からない。
 期限に関する規定が設けられていないことが問題ではないか。
 延納が許可された場合には(延納の担保を供しているので)納付されたものとみなして、他の納税義務者の連帯納付義務を解除してはどうか。
 遺産取得課税方式への移行とともに、連帯納付義務を廃止してはどうか。



(以上参考;週刊「税務通信」第3024号)
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