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M&Aニュース

                                               2008年10月07
 


 タックスヘイブン税制の適用除外要件は事業年度ごとに判断

   東京地裁 課税当局の更正処分を適法と判断
  

 
  タックスヘイブン対策税制が日本とシンガポールの租税協定に違反するのか否か、また、適用除外要件の判断時期が主な争点となった訴訟において、課税当局の更正処分を適法とする判断が東京地裁で示された(平成20年8月28日判決言渡 平成18年(行ウ)第747号)。
 訴訟において問題となったのは、原告が代表取締役を務める日本国内の法人が、シンガポールに設立した特定外国子会社等に該当する子会社に関連し、タックスヘイブン対策税制の適用の可否と、適用除外要件の判定に際し、特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に「主たる事業」の判定を如何に行うか。
 タックスヘイブン対策税制の適用除外要件の判定について、原告は、複数の事業を営んでいる場合の主たる事業の判定は、事業が継続的なものである以上、その前後の事業年度を通じて判断すべきと主張したのに対し、課税当局は、課税要件の判断は、各事業年度ごとに行われるものであり、適用除外要件の規定からも、主たる事業についての判断時期は、その事業年度に求められるべきとしていた。 東京地裁民事第3部の定塚誠裁判長は、タックスヘイブン対策税制が、シンガポールで、「企業会計基準の利得」について課税権限の分配について定めた日星租税協定に反するものではないとした。
 また、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件の判定において、特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が「主たる事業」であるかの判定は、その特定外国子会社等のその事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定するほかないとした。l
 そして、問題となった事業年度における、シンガポール子会社について、収入及び所得、また、総資産においても、株式保有によるものが占める割合が、99.5%超となっていることから、その事業年度における主たる事業は、株式の保有にあったと認めるほかない等の理由により、原告の請求を棄却する判決を行っている。
 なお、判決を不服とした納税者は控訴しており、裁判の場を高裁に移していることから、高裁の判断が注目されることとなる。


 ◆ 日星租税協定に反するか


 事案では、日本国内の鋼管の販売業を営む法人の代表取締役である原告が株式を保有している、シンガポールに設立された外国子会社が特定外国子会社等に該当することから、そのシンガポールの子会社の課税対象留保金額を、原告の雑所得の金額に参入した構成処分に対し、処分を不服として、その取消が求められている。
 主な争点は、個人のタックスヘイブン対策税を定めた租税特別措置法40条の4の規定が、日星租税協定7条1項に違反するか否か、とタックスヘイブン対策税制の適用除外要件の判定について。
 このうち、タックスヘイブン対策税制を日星租税協定の関係については、措置法40条の4の規定は、特定外国子会社等から、日本に移住する株主に利益移転がされるのが当然であると解される場合であるにもかかわらず、それがされていないときに、本来あるべき利益移転が実際にあったものとみなして課税するものであって、「企業の利得」についての課税権限の分配について定めた日星税協定7条1項に反するものではないと介すべきとの判断が示されている。


 ◆ タックスヘイブン対策税制の適用除外要件の判定について


 課税当局は、そもそも課税要件の判断は、各事業年度ごとにおこなわれるものである上、タックスヘイブン対策税制の条項は、適用除外となる業種につき、「各事業年度においてその行う主たる事業が次の各号に掲げる事業のいずれに該当するか」によって、判断すべきとしているとした。
 また、特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は、その事業年度における、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等の具体的・客観的な事業活動の内容を総合的に勘案して判定するべきとした。
 そして、シンガポール子会社の問題となった事業年度の「主たる事業年度」について、株式の保有にかかる収入金額及び所得金額の各事業の収入金額及び所得金額の合計額に占める割合は、いずれも99%を超えるものであり、「主たる事業」は株式の保有であるとした。


 ◆ 前後の事業年度と通じて判断すべき


 これに対し、原告は、複数の事業を営んでいる場合における主たる事業が何であるかの判定は、事業が継続的なものである以上、その事業年度のみでなく、その前後の事業年度を通じて判断すべきであるとともに、その特定外国子会社等が、その事業から得た利益ないし所得の金額及び保有資産の多寡よりも、一般に源泉所得(所得を生み出す素)として観念される人・機械設備・不動産等の実物の生産要素の多寡によって決すべきであるとした。
 そして、株式の保有事業よりも鋼管の卸売事業により多くの人、機械設備及び不動産を投入していたことは明らかであり、問題となった事業年度における主たる事業は、鋼管の卸売業であったというべきとした。


 ◆ 事業年度ごとに適用除外要件を判定


 判決では、「特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に、そのいずれの事業が「主たる事業」であるかの判定は、当該特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定するほかないというべき」としている。
 そして、問題となった事業年度において、シンガポール子会社の、収入及び所得、また、総資産においても、株式保有によるものが占める割合が、99.5%を超えていたと認められること、シンガポール子会社の現地取締役が退任し、シンガポールの現地事務所が閉鎖された以降は、卸売事業の実績がないこと等の理由により、その事業年度における主たる事業は、株式の保有にあったと認めるほかないというべきと、した。
 また、シンガポール子会社の当初の設立目的は、原告が代表取締役を務める日本国内の法人の極度の財務状況の悪化を緊急に改善するための融資を受けるため、別の海外子会社の株式の譲渡先とするための持株会社とするためであったと認められ、これらの事実は、問題となった事業年度における、シンガポール子会社の主たる事業は、株式の保有であったことを推認させるものであった、ともしている。




(以上参考;週刊「税務通信」第3034号)
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