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M&Aニュース

                                               2008年10月20
 


  株券電子化に係る不明株主と相続税

        

 株主への通知や配当金支払などができず、その所在も把握できていない、いわゆる”不明株主”の保有株式については、会社法上、@株主への通知や催告が5年以上継続して到達せず、Aその株主への配当金支払いも5年以上継続して行えない場合には(会社法187等)一定の要件の下、株券発行会社が不明株主の保有株式を株主の許可なく売却できるとされている(売却額は一定期間保管され、この期間内に、株主が名乗り出れば返却される)。
 ところで、紙ベースの株券を全廃し、株主権利を電子化する「株券電子化」が来年1月に実施(予定)されることにタイミングを合わせる形で、上場企業等の中には上記制度を利用し、不明株主の保有株式を売却する動きもあるようだが、仮に、株券(タンス株)を自宅保管する被相続人が死亡し、その相続人が相続税額計算のためにタンス株を評価しようとしたが、被相続人が不明株主であったため発行会社により株券が売却されていたような場合でも、その株券の評価額は「相続時の時価」(相法22)となり、課税関係が少し複雑になるので留意されたい。

 というのも、発行会社による売却額は「売却時の株価」をベースとしているのに対し、相続税額計算は「相続時の時価(=株価)」をベースとするため、これら双方の額が一致することは少なく、場合によっては、相続税額計算のために株券の時価評価をやり直す必要がある上に、譲渡所得金額の計算も行わねばならないからだ。
 例えば、戦前に被相続人Aが800で購入した上場株式X株(タンス株)を平成21年4月に相続人Bが相続し、相続税額計算のためにX株を評価しようとしたが、被相続人Aが不明株主であったことから、平成20年12月にA株が発行会社に1,200で売却されていた。このため、やむなく相続人Bはこの売却額1,200を返却されたとする(相続人はB1人、相続財産はX株1株のみ)。
 この場合、@のように、X株の「相続時の時価」が1,000であったならば、相続税評価額が1,000となるだけではなく、X株の譲渡所得金額として400(=売却価額1,200−購入価額800)が生じる。
 逆に、Aのように、A株が発行会社により500で売却され、やむなく相続人Bがこの売却額500を返却された場合でも、X株の「相続時の時価」が1,000であったならば、相続税評価額は1.000となり、X株の譲渡損失額として△300(=売却価額500−購入価額800)が生じる。この△300については「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除制度」を利用できるため、控除しきれない譲渡損があるならば、翌年以後3年間に渡って株式譲渡益と相殺することができる(措法37の12の2)。
 もっとも、発行会社が不明株主の保有株式を株主側の許可もなく売却し、その売却額が一定期間保管されるといっても、この保管期間は、債権等の消滅時効の10年まで(民法167)。つまり、10年経過後は不明株主には何も返却されず、株主権利も喪失することとなるが、このような場合には課税関係は生じないだろう。







(以上参考;週刊「税務通信」第3036号)
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