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M&Aニュース

                                               2009年4月27日
 



  国税庁 上場有価証券の評価損に関する
  Q&Aを公表

    
    回復可能性の判断基準を明確化し税務上の問題を解消へ     

  
  国税庁は4月3日、「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を公表した。
 このQ&Aは、税務上の評価損計上の判断基準の明確化を図ることを目的として作成されたもので、上場株式の評価損を損金算入するに当たっての取扱いが具体的に示されており、非常に意義深い。
 金融商品会計に関する実務指針では、時価のある有価証券の時価が取得原価に比べて50%以上下落した場合には「著しく下落した」ときに該当し、合理的な反証がない限り、減損処理は行わなければならない、とされている。その一方、法人税の取扱いでは、単に価額が50%程度以上下落したという事実のみで評価損の計上が認められるということにはならず、近い将来価額の回復が見込まれないことを立証することが必要とされており、企業は会計上減損処理を行っても、税務上損金算入することについて躊躇する向きもあったのが実情だ。
 この点について、Q&Aはその取扱いを明確にする内容となっており、今般の上場株式の評価損を計上するに当たり留意すべき点も多いことから、企業の経理担当者は得に注目したい。


◆ 企業の合理的な判断基準を尊重


 公表されたQ&Aは4問からなるが、Q1、Q2は、回復可能性の判断基準について示されており、Q1はすべての企業に対する総論的な内容、また、Q2は公認会計士監査が行われる企業を対象とした内容となっている。
 まずQ1では、株価が50%相当額を下回る場合における株価の回復可能性の判断基準について、基本的な考え方が示されている。
 上場株式の評価損の損金算入が認められるために必要な「価額が著しく低下したこと」については、事業年度末の価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことの二つの要件により判断することが、通達には示されている。
 Q1のAと解説では、この「近い将来回復が見込まれない」ことについて、法人から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重され、必ずしも株価が過去2年間にわたり帳簿価額の50%程度以上下落した状態でなければ評価損の損金算入が認められないというものではない、ということが明らかにされている。
 また、株価の見通しについて、専門性を有する客観的な第三者の見解があれば、合理的な判断の根拠のひとつとすることも考えられるとあり、具体例として、証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行人の企業情報などを用いて提示されるのであればこれらも合理的な判断であると認められるとされている。


◆ 監査法人の監査があれば合理性の検討あり


 Q2では、監査法人のチェックを受けて継続的に使用される形式的な判断基準について、自社の監査を担当する監査法人から、株価の回復可能性の判断基準の一定の形式基準について、税効果会計等の観点から合理性のチェックを受けて継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損金算入の判断は合理的なものと認められることが明らかにされている。
 これは、株主や債権者などの利害関係を有する第三者の保護のために財務情報の信頼性を確保する責務を有する独立の監査法人のチェックを受けたものであれば、客観性が確保されていると考えられるからとされ、基準が継続的に使用されるのであれば、恣意性が排除されていると考えられ、税務上の損金算入の判断としても合理的なものとみとめられるからとされる。
 なお、財務諸表の監査を経ているのであれば、この損金算入の基準に対するチェックを受けたものと同様に取り扱うことができるともされている。ただし、この基準は税務上の観点から明らかに不合理でないということが前提となる。
 また、コンサルタント業務のみを行う監査法人等による関与、会計参与や税理士による関与は、利害関係を有する第三者の保護のために行われる監査には当たらないことから、自社の監査を担当とする監査法人によるチェックには該当しないとされており、そのような法人はQ1を参考にして回復可能性の判断を行うこととなる。


◆ 期末時点で回復可能性を判断


 Q3の「株価の回復可能性の判断の時期」では、株価の回復可能性は事業年度末時点において判断するものであり、その合理的な判断を行った後において仮に翌事業年度以降に株価の上昇があったとしても、評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要がないことが明らかにされている。
 これは、そのような事後的な事情は事業年度末時点における株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではないからとされている。


◆ 減損処理なければ損金算入は認められない


 Q4の「株価の回復可能性の判断基準に該当した場合の評価損否認金の取扱い」では、過去の事業年度における評価損否認金について、その事業年度の申告調整により損金の額に算入した金額を評価損として損金経理したものとして取り扱うとし、損金算入の対象となる金額は、その事業年度末における税務上の帳簿価額と株価との差額になることが明らかにされている。
 ただし、気を付けたいのは、事業年度末の株価が、直近の減損処理による会計上の帳簿価額を更に下回るものの、その事業年度において会計上減損処理がされない場合は、税務上の帳簿価額と直近の減損処理後の会計上の帳簿価額との差額のみが損金算入の対象と成る点だ。あくまでも、会計上減損処理をした金額が、評価損として損金算入される金額となる。
 そして、会計で減損処理をしても税務上自己否認している場合には、税務上の帳簿価額は変動しないことから、例えば3月決算会社の場合には、この21年3月期において、過去の自己否認した金額も含めて、損金算入の対象となる。その場合の金額は、あくまでも税務上の帳簿価額と時価の差額となる。
 なお、今般、Q&Aにより取扱いが明確にされたわけだが、過去の事業年度において、会計上減損処理を行ったことについて、税務上の回復可能性の判断を行っていたものの誤って自己否認を続けてきた法人に限っては、減額更正が認められる余地もあると考えられる。
 その場合には、評価損の計上を検討する過去の事業年度末時点において、近い将来その価額の回復が見込まれなかったことを判断したことについて立証する必要があるので、慎重に対処されたい。


◆ 期末と月間平均で時価に差


 Q&Aでは触れられていないが、時価の取り方によっても影響がありそうだ。税務上、会計基準と同様に期末日の価格を原則としつつも、期末以前1ヶ月間の平均額を使用することも認めている(法基通9−1−8)。3月31日の日経平均株価は8,109円。これに対して3月の月間平均は7,764円である。保有株式の株価によっては、月間平均を使用した方が評価損の損金算入額が大きくなるケースもある。ただし、上場会社では、会計上、期末日の価格を使用している会社が多いとみられる。


◆ 判断基準の明確化により実務上の問題を解消


 平成21年3月期の決算においては、これまで以上に多くの企業にとって、税務上、上場株式に評価損を計上することが悩ましい問題となることが想定されてきた。
 今回公表されたQ&Aでは、税務上評価損を損金算入する場合に、その否認を原則として避けられることを目的に、判断基準の明確化が図られていることから、企業の担当者にとって実務上の問題が解消されることが期待される。





(以上参考;週刊「税務通信」第3062号)
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