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M&Aニュース

                                               2009年8月20日
 



  
     実務家なら知っておきたい
   「第二会社方式」による中小企業再生Q&A
  
            基本的な仕組みから実務上の留意点まで紹介

   



 事業再生支援を主眼とした「改正産業活力再生特別措置法」(以下、改正産活法)が6月22日に施行されたが、同法ではその目玉の一つとして、優良事業を受皿会社に分離させて事業の継続を図る「第二会社方式」への各種支援策を盛り込んでいる。
 景気後退を受け、経営悪化に苦しむ中小企業は多いようだが、その中には「第二会社方式」によれば事業再生も可能な企業も多いと見られ、同方式に関する問い合わせも多いようだ。そこで今回は、改正産活法による中小企業事業再生スキーム利用時のメリットや留意点等を紹介する。

  
◆Q1 第二会社方式とは何か?

   A: 第二会社方式とは、赤字に苦しむ中小企業の優良事業を本体から分離して、これを受皿会社(第二会社)に移すとともに、本体に残った赤字部門を精算等する仕組みのこと。近年、同方式を利用した中小企業事業再生が増えているという。
 分離する際には「事業譲渡」又は「会社分割」のいずれかを採用する(産活法2の22)。


  
◆Q2 第二会社方式の利用は改正産活法適用時に限定されるのか?

  A:限定されない。従前から、一般に「第二会社方式」と呼ばれる事業再生手法はあった。ただ、近年、その利用件数が増えていることから、改正産活法では同法に則って事業再生を図る場合には、受皿会社(第二会社)に「営業上の許認可」が自動承継され、登録免許税等の軽減措置が適用されるなどの各種支援策を設けている。


 
◆Q3 事業譲渡や会社分割にはどんなパターンがあるのか?


 
A:事業譲渡、吸収分割、新設分割の3パターンがある(基本指針九ロ1)。
   具体的には、事業譲渡の場合、受皿会社を新設する「新設譲渡型」、既存会社を受皿会社にする「既存譲渡型」があり、会社分割の場合には、分離元企業が受皿会社を新設する「新設分割型」、スポンサー等が受皿会社を新設する「新設会社吸収分割型」、既存会社を受皿会社にする「既存会社吸収分割型」等がある。いずれかの方法によって優良事業の分離を行わなければならない。


 
◆Q4 優良事業分離後、分離元企業は必ず清算等するのか?


 A:必ず清算等する。具体的には、優良事業の分離に伴って、分離元企業は必ず「特別清算手続」又は「破産手続」により将来的に清算しなければならないとされている(基本指針九ロ2)。赤字状態にある分離元企業の継続は認められないということだ。


 
◆Q5 対象となる企業は?


 A:過剰債務を抱え、かつ、収益性のある事業を有した「中小企業」が対象となる。この「中小企業」には。主に以下のような中小企業等が含まれ(産活法2R)、業種ごとに、下記の資本金基準もしくは従業員数基準のいずれか一つをクリアすれば対象企業となる。

主な業種 資本の金額又は出資の総額 従業員数
製造業・運輸業・建設業 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5千万円以下 100人以下
小売業 5千万円以下 50人以下
ゴム製品製造業 3億円以下 900人以下
ソフトウェア業・情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5千万円以下 200人以下


◆Q6 改正産活法利用時に自動承継が認められる営業許認可にはどんなものがあるか?


 A:改正産活法に基づく中小企業再生スキームの最大の利用メリットが、優良事業分離時に、受皿会社に「営業上の許認可」が自動的に引き継がれるという点だ。通常、新設会社に事業分離等を行った場合、新設会社は営業許認可を再取得しなければならないからだ。
 ただし、産活法において自動継続が認められる許認可は、現時点では以下に限定される。

・旅館業許可(旅館業法第3条第1項の規定による許可)
・建設業許可(建設業法第3条第1項の規定による許可)
・バス事業、タクシー事業許可(道路運送法第4条第1項の規定による許可)
・トラック事業許可(貨物自動車運送事業法第3条の規定による許可)
・火薬類製造・販売業許可(火薬類取締法第3条及び第5条の規定による許可)
・ガス事業許可(ガス事業法第3条及び第37条の2の規定による許可)
・熱供給事業許可(熱供給事業法第3条の規定による許可)


◆Q7 改正産活法の利用時には税務上のメリットもあるのか?


 A:ある。通常、事業分離時には建物や土地の登記などを要することから、登録免許税や不動産取得税が課税されるが、これらの”移転コスト”を軽減するべく以下のような軽減措置も設けている(中小企業庁HPより抜粋)。

◎登録免許税の軽減
登記事項 本則税率 軽減税率
商業登記 株式会社の設立又は資本金の額の増加 0.70% 0.35%
分割による株式会社の設立又は資本金の額の増加
                資本金が純増しない部分 0.15% 0.10%
                資本金が純増する部分 0.70% 0.35%
不動産登記 事業譲受による不動産の所有権移転(土地) 1.00%(*1) 1.00%(*1)
事業譲受による不動産の所有権移転(建物) 2.00% 1.60%
分割による不動産の所有権移転 0.80% 0.20%

(*1)租税特別措置法第72条に基づく優遇税率適用後の税率


◎不動産取得税の軽減
取得の形態等 本則税率 軽減税率
事業譲受による不動産の所有権の取得(土地) 3.00%(*2) 2.50%
事業譲受による不動産の所有権の取得(建物) 4.00% 3.33%
(*2)地方税法附則第11条の2に基づく優遇税率適用後の税率


Q8 改正産活法利用時に注意すべき点は何か?


 A:一定の要件の下、『中小企業承継事業再生計画』を策定し、その認定等を受けなければ営業許認可の自動継続や軽減税率の適用といったメリットを享受することはできないが、その際には「債権型法的整理」や「一定の私的整理」のいずれかに基づき、再生計画を策定する必要がある点に留意されたい(施行指針47)。
 というのも、その詳細を定めた施行指針には、「会社更生法」「民事再生法」、「中小企業再生支援協議会」、「事業再生ADR」、「一般に公表された債務処理を行うための手続」のいずれかによらなければ産活法の適用はないと定めているが、この「一般に公表された債務処理を行うための手続」には、私的整理ガイドライン、RCC、企業再生支援機構による事業再生手続も含まれるからだ(この点、法令や指針では明示していないので注意)。


Q9 改正産活法による第二会社方式利用時には、金融機関等の債権者が債権放棄等を行うこともあるが、ここで寄附金課税の問題は生じないか?

A:基本的には生じないと考えられる。改正産活法による「第二会社方式」利用時には、先述した中小企業再生支援協議会等による手続を経ることが前提条件となるが、これらの手続きに則った場合には基本的に、国税当局からの文書回答において寄附金課税の問題が生じない旨が明らかにされているからだ。
 例えば、A銀行が中小企業であるB社に100を融資していたが、そのB社が債務超過等に陥ったため、改正産活法による「第二会社方式」により、B社の優良事業を受皿会社C社に事業譲渡しようとする場合、中小企業再生支援協議会を通じた公正な債権者調整プロセスを経て事業再生を図り、その上でA銀行の債権放棄額が100と確定したのであれば(つまり、合理的な再建計画に基づいて100を債権放棄するのであれば)、A銀行は100を損金算入することが認められると思われる(法基通9−4−2、平成17年6月23日付文書回答)


◆Q10 Q9の例の場合、債務者側では資産の評価損の損金算入は認められるか?期限切れ欠損金の利用も認められるか?


A:基本的には認められると考えられる。資産の評価益や評価損の益金や損金の算入については、法人税法上は原則認められない一方で(法法23@、33@)、例外的にいくつかのケースにおいては算入が認められるが(法法25AB)、33AB)、ここには、民事再生法に基づく再生計画認可の決定等があった場合だけでなく、中小企業再生支援協議会等の手続きにより事業再生計画が策定された場合も含まれるからだ(法令24の2、68の2、平成17年6月23日付文書回答等)。
 また、青色欠損金の繰越控除についても原則は「7年間」とされる一方で(法法57)、例外的にいくつかのケースにおいては7年を超えた期限切れ欠損金の利用が認められるが、ここには民事再生法等の適用を受けた場合のほか(法法59@A)、これらに「準ずる事実」があった場合にも(法令117四)期限切れ欠損金を利用することができるとされており、この「準ずる事実」」には、「債務の免除等が多数の債権者によって狭義の上決められる」もの等が該当すると通達ベースで定められている(法基通12−3ー1(3))。
 つまり、Q9の例のように、仮に中小企業再生支援協議会による手続を経るのであれば、基本的には、資産の評価損の算入や期限切れ欠損金の利用が認められるため、B社においては、債務免除益と相殺可能な損金が生じ、課税問題が生じないこととなると思われる。


◆Q11 改正産活法による第二会社方式は”子会社”も利用できるのか?


A:利用が認められないことも多いと考えられる。同法による第二会社方式は、先述したように中小企業再生支援協議会等の手続きを経ることが前提となるが、一般的にこれらの手続きにより債権者調整等を図る場合、仮に親会社が赤字子会社の債務を負担しないのであれば、最も重要な債権者であることが多い金融機関が再生計画に難色を示し、再生計画自体が破綻する可能性もあるからだ。つまりこのようなリスクを回避するため、中小企業再生支援協議会等への申し込み段階で、子会社は申し込みが受け付けられず、結果的に改正産活法の利用はできないこともあるということだ。
 もっとも、赤字子会社に対する債権を、親会社も金融機関等も公平に債権放棄等する計画などであれば合理性が認められ、子会社であっても中小企業再生支援協議会等の手続きを利用でき、結果的に改正産活法の利用が認められることもあるようだ。あくまでも運用上の実質判断となる模様だ。


◆Q12 改正産活法によらない第二会社方式により債権放棄等を行う場合はどうなるか?


A:場合によっては債権者側に寄附金課税の問題等が生じると考えられる。
  改正産活法による第二会社方式利用時には、中小企業再生支援協議会等による「公正な債権者調整プロセス」等を経るため債権放棄額等につき”恣意性”が排除されるが、仮に親会社が自らの判断だけで、子会社に対して第二会社方式(いわゆる第二子会社方式)を利用して債権放棄するとなると、その手続きに”恣意性”があるか否かの判断が難しくなるからだ。
 もっとも、親会社だけでなく、金融機関等も赤字子会社に貸付を行っており、その金融機関等も合意した上でやむなく第二会社方式を利用するのであれば、中小企業再生支援協議会等による手続きを経ずとも、通常は恣意性が排除されているものと考えられるため、親会社は赤字子会社に対する債権放棄額を損金算入することが認められることもあるようだ(法基通9^4−1)





(以上参考;週刊「税務通信」第3075号)
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