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M&Aニュース

                                               2010年08月13日
 





  
     のれん価値はなぜ移ろい易いか 
          
      
    
   



 対等合併に近いM&Aは簿価で統合してきたが、その持分プーリング法が否定され、純資産や株式を公正価値で買う処理をするパーチェス法一本に絞られたのは、つい先日のことだったように思われる。しかし、M&A会社のグローバルスタンダードはいまや支配取得法(acquisition method)に移行した。買取手段も公正価値で測定し、被買収企業の識別可能な資産負債はすべて(オフバランス資産負債を含めて)支配取得日の公正価値で測定することによって、投資のコストとリターンの関係を明らかにしようというわけである。
 資本主義は、投資のコストとリターンを、市場機能を使って明らかにする経済システムであるから、M&A会計は確かにその方向に向かって確実に進歩している。その結果として、妖怪のような実態不明だったのれんは、シナジー効果といわれるコアのれんにかなり近づいた。しかし、きわめて特殊な資産であるのれん価値がいつまで持続するか、耐用年数は何年かは誰にも分からない。だからのれんは償却することなく、1年に少なくとも1回は減損テストを、というわけである。
 M&Aが成功したか失敗だったかは、子会社株式の価値やのれんの減損テストの結果にかかっている。しかし、被買収企業で働く人々の視点に立ち返ってみると、新たな所有者・株主(買収者)の経営理念の下では、従来と比べてより生き生きと働いている人が多いか、それともリストラの不安におびえている人が多いかに懸かっている。前者は、新たなグループに加わり新たなインセンティブに燃えて企業価値を高めるケースであるが、後者は、組織の統合に失敗するケースが多い。人心の掌握に失敗すれば、シナジー効果どころか、有能な人材から先に離反するからである。買収する側は法人実在説に立って企業価値や株主価値を測定しM&A取引を実行しても、被買収企業は実は通常の継続企業ではなくなる。その場合、”復水盆に返らず”であるから、減損を戻入れることはあり得ないのは当然だ。
 いずれにせよ、M&Aでは組織の原点は個人であることが鮮明になる。被買収企業で働いている経営者も従業員のモラルも能力もバランスシート上の資産としては表れないが、有形資産を使いこなすのも無形資産を担うのも人である。俗に”企業は人なり”というように、”法人”というモノは擬制だったことになる。のれんも無形資産も、その評価額は通常は買収側からみたものにすぎず、被買収側の経営者も従業員も従来通り働くことを前提とした期待値にすぎなかったことになる。
 「新たな経営者が被買収企業の人々の心をつかんだかどうか」、これが真に支配を取得したかどうかを判定し、M&Aが成功するかどうかの決め手になるとすれば、M&Aによるシナジー効果は買収側の一方的期待ではなく、被買収側のインセンティブをいかに維持するかに注力すべきである。とくにクロスボーダー取引では、資本の論理だけではなく、買収される側のカルチャーや心を読み解くことが不可欠になる。





       (以上参考;週刊「税務通信」第3124号)
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