運営人:潟Gムアンドエーインタークロス
後援:税務研究会

M&Aニュース

                                               2010年08月17日
 





        公正価値概念は「市場評価」が基礎 
          
      
           
   

                ASBJ 公開草案の論点





 企業会計基準委員会(ASBJ)は7月9日、「公正価値測定及びその開示に関する会計基準案」等を公表した。この基準化によって、国際的な会計基準で使われている「公正価値」の用語やレベル別の分類・算定方法とともにその開示を我が国にも導入する。
 我が国の基準には従来、「公正価値」の用語こそ見当たらなかったものの、ほぼ同義とされる「時価」の用語が、複数の基準で定義されている。基準案は、時価から「公正価値」への読み替えを求めるが、そもそも「公正価値」とは何か。そのルーツを探る。


◆ 「市場参加者の視点」を重視


 公表された公正価値測定・開示基準案では、公正価値を「測定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろう価格又は負債の移転のために支払うであろう価格(出口価格)」と定義している。そして、この定義化にあたって特に重視したのが「市場参加者の観点に基づく評価」であり、「財務諸表の利用者視点(投資家視点)」につながる考えだ。
 よく聞くように、国際会計基準(IAS)から国際財務報告基準(IFRS)へと名称変更した時点で、IFRSは「利用者(投資家)のための報告基準」を目指している。
 よって、公正価値の定義に関する「市場参加者・・・」の前提も予期される方向性だろう。ただ、その定義を巡る日本の議論では、「入口価格」や「出口価格」、「時価」や「現在価値」等々の専門用語が頻出し、一般には分かりづらいものだった。


◆ 基準の前提に注意


 我が国の基準に限らず、国際的な基準も「投資家視点」になる前からすでに整備されてきた。それらは、「経営のための、企業の視点で作成するための基準」との指摘がある。すると現行の基準は、投資家視点と企業視点による基準が混在する状態だ。
 この状況が、公正価値概念の整理においても様々な論点になった。一つが「出口価格」と「入口価格」の違いであり、「出口価格」への統一の議論。そこで、時価を巡ってしばしば登場する用語を整理してみた。
 「使用価値」や「再調達原価」、「市場価格」など図中の用語の概念と基準の関係は、金融商品会計基準など時価評価が導入された10年前にも注目されていた。


◆ 「入口」と出口」と「時価」


 大雑把にいえば、入口価格は「取得価格(原価)」であり出口価格は「売却価格」を指す。企業の経営成績を生産活動で測るなら、売った製品から原料関連のキャッシュ・アウトを差し引いた数値でみるのが普通だ。この場合、キャッシュ・アウトは「取得原価」であり「入口価格」になる。物価変動を踏まえた時価評価をするとしても、キャッシュ・アウトは、入口価格を調整する方法が一般に受け入れられたようだ。こうした考え方は製造業に当てはまりやすいとされる。図では「事業投資」エリアでの見方になる。
 一方、図の「金融投資」のエリアでは、時価の期間評価差額がそのまま投資の成果になる。「金融投資の時価には、一般に市場の平均的な期待が反映される」、「のれんのない金融投資は、いつ換金しても価値に影響がない時価評価損益が、そのまま実現利益」になり、その時に意味をもつ「出口価格」が、金融投資の利益測定の前提になる。
 注目したいのは、事業投資での入口価格や時価の前提が、「経営のための価値」である企業の視点につながる見方であり、一方の金融投資では、「一般に市場の平均的な期待が反映される」時価として、「利用者のための価値」が前提になることだ。


◆ 「公正価値」といくつかの論点


 そして「公正価値」は、図のように金融投資エリアにおける「出口価格」の一種であり、「観察可能な市場における市場価格による評価額」として理解されている。よって、公正価値概念が、基準案でいう「市場参加者の観点に基づく評価」であり、それが「投資家視点」の「時価」を前提」にするのもうなずける。ただ、こうした前提や公正価値概念を巡って、いくつかの論点が浮上している。
 例えばその定義では「市場の視点」を重視するのだが、「なぜ企業が市場の評価による価値を開示しなければならないのか」というものだ。開示制度は、企業の情報について優位にある企業(経営者)自身が、劣位にある投資家のために情報を提供することに意義がある。市場一版の評価を企業が推定するのであれば、経営者と投資家は同格であり、その開示は「企業側の仕事ではない」という疑問だ。
 また、公正価値の階層構造(レベル1〜3)についても指摘がある。「レベル1を時価だとしても、レベル2と3は本来の公正価値ではない」とし、「レベル1以外の公正価値評価は切下げる場合に意味があり、減損の問題で捉えるべき」とする意見。
 そもそもになるが、ASBJ専門委での検討では、利益測定の前提や「時価評価の対象範囲」などの議論はあっただろうか。もっとも目標であるIFRSにあわせることがコンバージェンスであれば必要のない議論かもしれないが。

 【図】時価関連用語の整理







       (以上参考;週刊「経営財務」第2977号)
       (このコンテンツの使用に関し(株)税務研究会の許諾を受けています。)






Copyright (C) 1999- M&A Intercross Co.,Ltd , All rights reserved.
omo