2010年10月20日
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22年度税制改正に対応した
基礎からわかる解散・清算・残余財産確定Q&A
その2
<清算事業年度編>
Q12 清算事業年度の所得計算は変更されたのですか。
A 所得計算の方法は、「財産法」から「損益法」へと変更されました。
具体的に言うと、従前、清算所得課税の下では、@残余財産が確定するまでの各清算期間中に生じた所得については、税金の仮払い的な意味合いの「予納申告」(損益法計算)を行い、A残余財産が確定した段階で初めて「清算確定申告」(財産法計算)を行って、B最終的に、予納分と確定分を清算するような流れとなっていました。
例えば、A社が清算期間中に50を予納納付し、清算確定申告で実際納付額が70となった場合、不足分20をA社は納付することとなります(旧法法107)。逆に、清算期間中に50を予納納付したけれども、清算確定申告で確定額が40となった場合には、過大予納分10をA社は還付されることとなります(旧法法109)。
しかし、今後は、各清算事業年度の所得計算は損益法に一本化されることとなりました(法法5)。上記の「予納申告」、「清算確定申告」といった手続きは、今後は不要になるのです。
Q13 予納申告と通常申告は同じもののように見えるのですが。
A 確かに、「予納申告」も「通常の申告」も、損益法ベースで税額計算を行うという点では似ています。しかし、「通常の申告」では課税が行われるのに対し、「予納申告」では課税は行われません。一見すると、「予納申告」でも納付を行うので通常の所得計算と違わないようにも感じますが、「予納申告」とは、その名の通り「予」め、法人税を「納」付する、仮払い的な意味合いの「申告」に過ぎず、正式な申告と同じものではないのです。
Q14 清算事業年度では、期限切れ欠損金を利用できるのですか。
A 清算事業年度では、期限切れ欠損金を利用できます。しかし、無条件に利用できるわけではありません。この点を規定した法人税法第59条第3項では「残余財産がないと見込まれるとき」に該当することを前提に、期限切れ欠損金の利用を認めています。
Q15 「残余財産がないと見込まれる」とはどのような状態ですか。
A 債務超過の状態にあることを指します(法基通12−3−8)。例えば清算法人A社に債務免除益が生じた場合、実態貸借対照表の上で債務超過状態にあるならば、その債務免除益と期限切れ欠損金を相殺させることが認められます。
つまり、帳簿価額ベースの貸借対照表の上で債務超過であっても、実態貸借対照表の上で債務超過でないならば、期限切れ欠損金は利用できないということです。
Q16 実態貸借対照表とは何のことですか。
A 帳簿価額ベースの貸借対照表を、時価で評価し直したものを「実態貸借対照表」といいます。一般的に、この用語については聞きなれない向きもあると思われますが、実務では、法的整理や私的整理などの場面で作成されることが多いようです。
Q17 必ず、実態貸借対照表を作成しなければならないのですか?
A 必ずしも実態貸借対照表の作成を要するわけではありません。法人税法上、期限切れ欠損金の利用の際には、「残余財産がないと見込まれる」(=債務超過である)ことの「説明書類」を申告書に添付する必要があり、この「説明書類」に該当するものとして、通達では実態貸借対照表を例示しています(法規26の6三、法基通12−3−9)。
しかし、これはあくまでも例示に過ぎず、そのほかの書類でも認められるようです。具体的な範囲は、今後、取扱いの上で明らかにされる予定です。
Q18 「残余財産がないと見込まれる」(=債務超過である)かどうかはいつ判定するのですか。
A 各清算事業年度末の時点で判定することとなります(法基通12−3−7)。
例えば、清算事業年度1年度目において、清算法人A社に債務免除益が生じたため、期限切れ欠損金を利用しようとする場合、その清算事業年度1年度目”末”時点の実態貸借対照表の上で債務超過であるならば、その債務免除益と期限切れ欠損金の相殺が認められます。
Q19 解散時点や債務免除時点で判定することは認められないのですか。
A 認められません。例えば、清算法人A社に債務免除益が生じたため、期限切れ欠損金を利用しようとする場合、解散時点や債務免除時点では債務超過だったものの、その清算期末で債務超過ではなくなったのであれば、その債務免除益と期限切れ欠損金を相殺させることはできません。この点誤解も多いようなのでご注意下さい。
Q20 債務超過であるか否かは各清算年度末で判断するとのことですが、資産の時価変動で債務超過となることもあれば、ならないこともあります。この場合、どう判断するのですか。
A 各清算年度ごとに判断します。つまり、残余財産確定までの各清算年度のうち、期末時点で「債務超過である年度」では期限切れ欠損金が利用でき、逆に、期末時点で「債務超過でない年度」では期限切れ欠損金が利用できません。
解散から残余財産確定までの期間のうち、どこか一つの清算年度で債務超過でさえあれば、期限切れ欠損金を利用できるものと誤解する向きもあるようですが、そのようなことはなく、期限切れ欠損金を利用しようと考える各清算年度で判断することとなります。
Q21 清算年度1年目末では債務超過だったので期限切れ欠損金を利用しましたが、清算年度2年目末では債務超過ではなくなりました。この場合、修正処理などを要するのですか。
A 要しません。繰り返しにはなりますが、期限切れ欠損金の利用は、あくまでも期限切れ欠損金を利用しようとする清算年度末において「残余財産がないと見込まれる」ことが前提条件となります。
ご質問のように、清算年度1年目末では債務超過だったので期限切れ欠損金を利用したような場合、それ以後の各清算期末で債務超過となっても、ならなくても、清算年度1年目における税務処理には何ら影響はしません。
Q22 期限切れ欠損金の利用を検討しているのですが、そもそもどれくらいの金額をもっているのか把握できません。
A 簡便的に、別表五(一)の「期首利益積立金額」のマイナス数値を期限切れ欠損金として利用できます。
解散の場合の期限切れ欠損金については、政令上、「これまで繰り越された欠損金額−青色欠損金額=期限切れ欠損金額」の算定式で求めるとしていますが(法令118)、実務上は「これまで繰り越された欠損金額」を逐一記録などしていないことが多いようです。
この点に配慮する形で、取扱いの上では、別表五(一)の「期首利益積立金額」のマイナス数値を期限切れ欠損金として利用できるとしています(法基通12−3−2)。
Q23 青色欠損金と期限切れ欠損金がある場合、どちらから利用するのですか。
A 解散した場合における欠損金の利用は、青色欠損金・期限切れ欠損金の順となります(法法59B)。
逆に、会社更生法等を適用する場合には、欠損金利用は、期限切れ欠損金・青色欠損金の順となります。
Q24 期限切れ欠損金の利用は、債務免除益に限定されるのですか。
A 限定されません。期限切れ欠損金は、債務免除益に限らず、資産の評価益、私財提供益、資産の譲渡益などとも相殺が可能です。
法的整理等の場合は、期限切れ欠損金の利用は債務免除益、資産の評価益、私財提供益の3つに限定されますが(法法59@A)、解散の場合はこの3つに限定されず、資産の譲渡益なども範囲に含まれるということです。
Q25 実態貸借対照表の作成ベースとなる時価には、何が該当するのでしょうか。
A 原則として「処分価格」がベースとなります(法基通12−3−9(注))。ただし、例えばX社がA事業とB事業を営んでおり、このうち業績不振にあるA事業を廃業し、業績好調なB事業を第三者に事業譲渡する前提でX社が解散する場合、A事業に係る資産は「処分価格」で実態貸借対照表に反映されますが、B事業に係る資産は今後も使用される見込みのため「譲渡される場合に通常付される価額」で反映されることになります。
Q26 清算期間中に土地を売却しようとしましたが、適切な買手がいなかったため現物として残っています。このような場合、どのように土地を評価するのですか。
A 実態貸借対照表の作成ベースとなるのは原則「処分価格」ですが、土地の処分価格というのは算定が難しいと見る向きもあるようです。この点、実務家の中には、近隣の土地の売買実例などを参考にして時価を算定し、これを実態貸借対照表に反映することもあるようです。
(以上参考;週刊「税務通信」第3132号)
(このコンテンツの使用に関し(株)税務研究会の許諾を受けています。)
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