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                                               2007年01月30日

東京高裁 差戻し控訴審で再更生処分を適法
とする判決


法人税額等相当額控除による処分後に評価見直し求めた納税者主張を棄却   

  東京高等裁判所第5民事部(小林克己裁判長)は平成18年12月20日、純資産価額方式による非上場株式の取引価額の算定で、通達改正前の昭和62年当時に法人税額等相当額を控除して評価することは合理性があるとした最高裁判決(17年11月8日)を受けて行われていた差戻し控訴審の判決を言い渡した。
 最高裁判決後に、法人税額等相当額を控除した評価額による再更生処分が行われたが、差戻し後の本控訴審では、この再更生の基となる資産評価の適法性が主な争点となった。
 納税者側は土地の評価方法について新たな主張を行ったが、東京高裁はこの新たな主張に対し、時機に後れて提出された納税者自らのこれまでの主張を覆すもので、訴訟上の信義則にも反するとして却下、再更生処分を適法とする判断を下した。納税者は再び上告等の手続きを行っている。

最高裁で法人税額等相当額控除を認める

  事件は昭和62年分の所得税等の更生処分をめぐるもの。控訴人Aへの関係会社D社株式の低額譲渡について時価との差額が賞与と認定されたこと、控訴人A・Bへの控訴会社C社新株の有利発行が一時所得とされたこと、A・Bから関係会社等へのC社株式の譲渡について譲渡所得課税がされたことなどによる。
 一審の東京地裁(12年7月13日)、二審の東京高裁(14年1月30日)では納税者主張はいずれも棄却されたが、最高裁判所(17年11月8日)では原判決を破棄、C・D社株式の価額について、法人税額等相当額を控除した後の純資産価額と類似業種比準価額の低い方をもって評価すべきであるとして原審に差し戻すとする判決を行っていた(2894号17年11月14日)。
 最高裁判所が、財産評価基本通達を準用して1株当たりの純資産価額の評価をする場合に、法人税額等相当額を控除しないとする取扱いは平成12年の所得税基本通達等の改正で規定されたもので、昭和62年当時に控除して算定することは取引当事者間の合理的意思に合致するとして、この点についての納税者の主張を認めたことで注目されていた。


差戻し後の控訴審で納税者が新たな主張を展開

 国側は17年12月16日付けで、C・D社株式について、最高裁の判決どおりに法人税額等相当額の控除を適用して算定した評価額によって「再更生処分」を行った。本件の差戻し控訴審は、納税者側が控訴するかたちで、この再更生処分の適法性が争われることになった。
 控訴人A・BのC社株式受けと譲渡による所得に課税することの適法性、D株の時価を売買実例により算定することの可否など、原審と同様の主張を行い、さらに、C・D株式が類似業種比準価額ではなく純資産価額で評価されることになるため、両社が保有する棚卸資産である土地の評価方法について新たな主張を展開することになった。
 控訴人は、保有1年以内の土地は帳簿価額、1年以上のものは公示価格比準価格と帳簿価格の高い方という評価方法は適切ではなく、公示価格比準価格が算定できるものはこれによるべきとし、形状調整による価格の見直しがされていない価格は適正は時価といえないなどと主張した。最高裁判決ではじめて、純資産価額の具体的な算定方法等が可能となったもので、時機に後れた主張ではないということだ。


自らの主張を覆す新たな主張は信義則違反と却下

 東京高裁では、土地の評価方法は原審で争点となっていて控訴人に主張する機会は与えられていたこと、1株当たりの純資産価額を認定した原審の判断について差戻し前の控訴審で争点としなかったにもかかわらず、国側の再更生処分等のあとの本差戻し控訴審で保有する不動産の評価について争う新たな主張を行っているとして、「差戻後の当審における新たな主張は、故意又は過失により時機に後れて提出されたものであり、しかも、訴訟上の信義則にも反するものといわざるを得ない」として却下した。
 国側は、地価が高騰していた昭和62年当時の両社保有土地の含み益が評価されていない点があることを指摘していたが、差戻し後の裁判で争点とすることがないようにとして、控訴人の主張を前提に再更生処分等を行っているのであって、この再更生処分後に、控訴人自らがこれまでの主張を覆すような新たな主張を行うことは認められない、としたわけだ。
 1株当たりの純資産価額において法人税額等相当額を控除して算定された再更生処分は適法であると判断されたもので、低額譲渡や新株引受け、譲渡による所得に課税することの適法性についても、原判決と同様に国側の主張があらためて認められることになった。
 なお、法人税額等相当額の控除について、最高裁で「昭和62年当時においては」とした判断であったためか、今回の差戻し後の控訴審においても、通達自体については何ら触れられていない。


(以上参考;週刊「税務通信」第2952号)
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